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伏見康生のコラム
「NO.118: 「日本短角種のお話(6)」」

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2010年12月15日

(前回の続きより)
 その飼育方法は、「夏山冬里」方式と呼ばれています。

 毎年5月中旬頃になると、岩手県岩泉町では標高1000m近い北上山地の広大な丘陵地に短角牛の母子を放牧します。それと同時に、一頭の「まき牛(種雄牛)」が同じ牧地に入れられます。これを「山あげ」と呼んでいます。
放牧期間中、母牛は牧草・野草を食べて悠々と過ごし、子牛はお母さんのおっぱいを一杯飲んでたくさん運動をして大きく育っていきます。またこの放牧期間、母牛とまき牛には交配を行ない新たなる子牛をお腹に宿すという大切な仕事があります。短角牛の繁殖はほとんどがまき牛との自然交配によって行なわれています。数十頭の母牛との交配はよほど重労働と見え、さすがの種雄牛もその時期にはげっそりとやせ細ってしまうとのことです。
 牛たちが山に放たれている間、里では飼い主さんは冬に備えた牧草作りや田畑、漁業、園芸等の仕事をすることができます。

 10月になり山の緑が無くなって厳しい冬が訪れようとする頃、牛たちは人間と同じ里に戻されます。これを「山さげ」と呼びます。放牧ですくすくと育った子牛はこの時期にせり市に出され肥育農家さんへと買われていきます。里では母牛は夏の間飼い主さんが作ったデントコーンや牧草のサイレージを食べ、風雪と寒さがしのげる牛舎の中で夏とは環境は違いますが、やはりゆったりと過ごします。そして放牧中に妊娠した母牛は2〜3月にかけ分娩し、子牛と共に次の5月にはまた山へと登っていく・・・というライフサイクルを繰り返します。

 短角牛の「夏山冬里」方式は東北の自然と風土を生かし、牛と自然と人間の三者の調和がとれた飼育方式といえます。

写真はいわて牛普及推進協議会様サイトよりお借りしました。

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