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伏見康生のコラム
「NO.111: 緊急?割り込みコラム 〜急性RA警報発令その3〜」

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2010年10月20日

 急性ルーメンアシドーシスを発症してしまった場合には以下の3つの流れで治療を行います。

1、原因の除去
 急性ルーメンアシドーシスの連鎖反応を止めるには、原因の除去が一番有効です。すなわち、多量に摂取された濃厚飼料と発生した乳酸をルーメンから取り除くということです。症状が重篤な場合には第一胃洗浄を、中等度では第一胃液の排泄を行います。
 全身状態を見ての判断になりますが、左膁部(ルーメン)に激しい拍水音と有響性金属音が聞こえ脱水が始まっている子は中等度以上と判断し、口から太いホースを入れ第一胃液を出来る限り排出させます(前々回の写真)。重度脱水(〜10%)し呼吸様式に異常が見られ、なんとか立ち上がることが出来るというレベルの子は重症で生命の危機にありますので、即、胃洗浄の対象となります。胃洗浄もホースを用い、微温湯をたっぷり第一胃に入れて・揺すり・吐かせ、入れて・揺すり・吐かせを数回繰り返します。いずれの場合にも処置後に重曹を第一胃投与すると残った乳酸の中和と水下痢により失われた重炭酸イオンの補給に有効です。また軽症と判断した場合には、重曹だけ投与することもあります。

2、循環の改善
 中等度以上の子は第一胃に全身の水分が引き込まれるため、循環血漿量不足による脱水性ショックを起こします。またそれにより腎前性腎不全をはじめとする多臓器不全のリスクが生じます。
 よって、強心剤を投与して多量の輸液を行い循環の改善をしてあげます。水下痢がおさまるまでの数日間は常に脱水が続きますので輸液の必要があります。また輸液はルーメンの細菌が死滅して大量に発生したエンドトキシンと体内で代謝されない血液中のD型乳酸の排泄を促し、いち早くエンドトキシン血症と代謝性アシドーシスを改善する役目もあります。 しかし重症時には輸液だけでは牛を助けることはできません。必ず1の原因除去を行う必要があります。

3、ルーメンの回復
 1と2の処置により急性期を脱した場合でも、ルーメンをはじめ消化管はとても大きなダメージを受けてしまっています。ルーメンの絨毛はボロボロになり、細菌叢は壊滅状態です。水様〜流泥の下痢が長く続くことも多いです。そこで一旦飼料を中止して、絨毛の回復と伸長をねらいモラフィットとバガスを与え、ルーメンに正常な細菌叢を定着させるために健康な母牛の胃汁と健胃剤を投与し、その安定化のため継続的に生菌剤を与えます。

 以上、治療法でした。今回は獣医師むけの内 容でしたが、この治療法を持って急性RA特集は終わりとさせていただきます。

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