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伏見康生のコラム
「NO.30: 「中耳炎とその治療(17)」」

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2009年3月7日

治療7 中耳炎 其の三
 いよいよ留置針を耳道に挿していきます。すっごいすっごい暴れますので普通に人間が耳かきをするみたいに挿していっても鼓膜に到達させるのはかなり至難の技です。そこでひと工夫。まず自分の人差し指を牛の耳の穴にすっぽり入れます。続いてその指をガイドにして隙間から留置針を滑り込ませていきます(写真)。こうすると簡単に入れることができます。耳道は人差し指と同じ向きに斜め前方に向いて伸びてます。鼓膜までの距離は3,4ヶ月の仔牛でおよそ6cmくらいです。鼓膜に刺さるとぷつっと軽い手応えがあります。手ごたえを感じることができなくても一番奥の骨に当たって行き止まりますので心配はいりません。他の組織や器官を刺してしまいそうで怖いですが、耳道と中耳腔は共に側頭骨などの骨に囲まれていて、留置針のプラスチックごときでは基本的には鼓膜以外を突き破ることはありえません。ただし!!あまり乱暴に刺してはいけません。耳道や中耳腔表面を傷つけて、かえって炎症を悪化させかねません(苦い思い出があります・・・)。シース管を「留置針と似たようなもの・・・」などと考えて使用するのも禁忌です!!硬く太すぎるためズバズバ傷つけて悪化します。ナイーブなのです。
 それから留置針を刺した状態で注射ポンプをつけて膿を吸引します。決して留置針は抜かずに深さや角度を微妙に変えながら何度も注射ポンプを引きます。やわらかい膿であれば注射ポンプの中にジュルジュル膿が入ってきます(写真)。膿がかたい時は吸っても留置針に詰まってしまうので、「数回吸って留置針を抜く、膿を捨てる、また刺して吸う」を繰り返すとよいと思います。膿を全部除去するのは不可能ですし、その必要はありません。何度か刺して吸引し、膿の塊に風穴を開けることができればばっちりです。鼓膜を破っているのでかるく出血もありますが、まったく心配はいりません。
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