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松本大策のコラム
治療法への誤解をなくす(その2)

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2018年5月21日

 前回は、「混合診療出来るのだから、自腹でも最良の処置をしてもらう」と言うことについてお話ししました。

 今回は、実例を1つあげておきましょう。ある指導先で「卵胞嚢腫」と診断されて、ホルモン治療を何回か受けていた牛さんですが、何度治療しても発情が弱く、発情を見つけても、また卵胞嚢腫になっている、という状態の牛さんでした。

 これまでの経験から、卵胞嚢腫の場合、原因もしくは誘因として「子宮内膜炎」があることが多いのです。そこで、膣鏡を持って陰門部から膣を開いてみました。すると、やはり子宮頚管から膿が出ているのが確認され、膣鏡を抜くと外陰部からも膿が出てきました。

 けっこう重度の子宮内膜炎だと診断し、こちらを治癒させないと卵胞嚢腫の発生も防ぐことが出来ないと判断し、畜主さんに「子宮内膜炎がひどい様ですから、子宮洗浄を3日ほど続けてやるか、一度洗浄してもらって、その後2~3日子宮薬注をしてもらって下さい」とお話ししました。ここは、直接のコンサル先ではなく、ある県のコンサルタント養成事業の一環として巡回した農場でしたから、直接獣医さんと連絡を取ることはしませんでした。

 2ヶ月後に再度巡回した際に、「あのお母さん牛はどうなりましたか?」と伺うと、「共済では2週間に1回しか子宮洗浄は認められていないので、2週間おきに3回洗浄してもらいましたが、発情は解りません」という返事でした。嫌な予感がして、再度お母さんの検診をしようとお尻の方へ回ると、膣鏡を使うまでもなく、以前より悪臭の強い膿がドバドバと流れ出ている状態でした。

 みなさんやけどをした時に、お薬を2週間おきに塗りますか?毎日塗るはずです。あるいは風邪を引いたときに2週間おきにお薬を飲むでしょうか?毎日続けないと意味がありませんよね。それと同じで、重度の子宮内膜炎や中耳炎などの洗浄は、何日か続けなければ、半端にバイ菌が生き残っていると、かえって薬の効かない「薬剤耐性菌」を生み出して、逆効果になるのです。

 このお母さんは、獣医師の先生に事情をお話しして、自腹でよいので抗生物質も強いものを使い、5日間しつこく処置していただいたところ、その次の巡回の時は1回で妊娠していました。

 このように自腹でも、牛さんの治癒が早い、あるいは確実な方が、ずっとお得になるのです。何でも保険を使うのではなく、目の前の獣医さんを信頼して、一番効果的な治療をしていただいた方が、経営改善には早道です。

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