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ゲストのコラム
「牛飼いの嫁より愛をこめて (第1話)」

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2011年6月14日

 松本先生から声をかけていただき、コラムを書かせていただくことになりました。宮城県の堀米ともうします。現在、家の前の肥育用牛舎と、山の中の繁殖用牛舎の2か所で、約130頭の和牛を飼っています。

 大学の専攻は畜産科でしたが、専門はラットやマウスといった実験動物。さらに、非農家で育ったためか、農家12代目の夫とは、物事の見え方とらえ方が違うようです。農家の人なら当たり前と思っていることに感激したり驚いたり。建物を外から眺めるのと、建物の中から外を見るのでは、見える景色は全く違います。牛飼いの女房になってから、農業と牛の世界の奥深さに目覚めました。牛たちは、人生の師匠でもあります。

 こんなに面白いことをだまって自分だけのものにしておくのはもったいない!と、産直米の通信に、日常で感じたことを書くようになりました。それが高じて、エッセイや童話を書いてくようになり、現在は児童文学の作家もしています。農業は、まさにネタの宝庫なのです。

 さてこの時期、宮城県と聞いて頭に浮かぶのは、東日本大震災。我が家もその渦中にあります(現在進行形)。そこで、今回のコラムでは、「我が家の体験した大震災」そして「牛と児童文学」の2つのお話を、書かせていただきたいと思います。

第1話:大震災発生
 3.11、その日私は、宮城県沿岸部の名取市で買い物をしていました。店に入ってすぐ、ゆっくりとした揺れを感じたと思ったら、体が飛ばされるような激しい揺れに襲われました。柱につかまっても手が振り切られ、床に投げ出されます。あわてて目の前のテーブルの下に潜り込みました。すぐに店内は停電となり、ほの暗い中に白い煙や悲鳴が充満し、パニック映画の中に放り込まれたような感じでした。いつまでも収まらない揺れに、この世の終わりかとさえ思いました。

 なんとか店を出て、すぐに車を出しました。名取の店は、海から約5キロあったものの、尋常ではない揺れに「津波」の文字が頭をよぎったからです。カーラジオからは、10メートルの津波という、信じられない警報が流れてきます。渋滞の4号線を、震える手で運転しながら、子牛用の牛舎がつぶれてはいないか・・と、心配でなりませんでした。(続く)

堀米 薫
HP: 牛飼い&米作り 百姓 堀米の部屋
絵本: チョコレートと青い空

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