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松本大策のコラム
破傷風のお話し

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2017年10月16日

 牛さんが神経症状を起こしている場合、いろいろな病気が疑われます。
 まず、ヘモフィルス症(最近はヒストフィルス・ソムナス症というのですが、ヘモの方が通りがよいので、あえてこちらで書きますね。)、それからボツリヌス症、大脳皮質壊死、カルシウム欠乏症など、いろいろな病気の中からそれぞれの特徴も考慮して診断を付けていきます。ヘモフィルス症の場合は、眼球振盪や第一胃運動の消失から低下、首から頭を後ろにバタンバタンと打ち付けるような症状が出ますし、ボツリヌス症の場合、後肢から起立不能に陥ります。大脳皮質壊死症の場合、ヘモに似た症状ですが、僕の経験では、どれだけビタミンB1を投与しても治らないことが多いです。カルシウム欠乏症の場合、よほどの重症かビタミンA欠乏症の併発例以外なら、しばらくすると強直が解けて起立します。

 今回メインでお話ししたいのは、『破傷風』です。こちらの特徴は、「牙関緊急」といって、口を食いしばるような症状と、後弓反張といって逆エビ反りみたいに身体が反り返っている状態が特徴的です(写真1)。


写真1

 破傷風の治療では「破傷風抗血清」というものを使いますが、なかなか常在しているところは少ないのが実情です。そういうときはどうするかというと、本当に苦肉の策なのですが、その農場のなるべく年を取ったお母さん牛から輸血します。年を取ったお母さん牛は、破傷風の抗体を持っている可能性が高いから、それを発症した牛さんに移してあげるわけです。輸血に関して、薬事法の絡みなどで(未承認薬の製造に当たると判断される場合があるようです)グレーゾーンだと言われていますが、僕は獣医師の診療権の行使だと考えて実施しています。
 また、破傷風の原因菌はクロストリジウムというバイ菌ですから、アンピシリンやデキサメサゾン、ビタミンB1などを混ぜた補液もします。他には、重曹などで血液のどろどろ(アシドーシス)の改善を図ったりもします。
 とにかく、一刻を争う状況だということを心にとめておいてください。

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