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雌牛なのに...

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2017年10月13日

 ときどき、ご質問・ご相談コーナーからのご投稿などで「雌牛の肥育が尾っぽを挙げて走り回っている」という相談を受けることがあります。みなさんはそういった経験はありませんか?

 尻尾を挙げているのは、いくつかの状態に分けられるのですが、一番注意しなければならないのは「雌の尿石症」です。と書くと、「はぁ?尿石症は去勢牛しか出ないだろ?」とか、少し詳しい方なら「雌は尿道が太くて短いから尿結石はつまらないのでは?」と行ったご指摘を受けるかもしれません。
 しかし、残念ながら尿結石が出来るメカニズムは、去勢牛だろうと雌牛だろうと同じです。オシッコがアルカリ化する状態になれば、どちらの性別でも尿結石は作られるのです。

 では、なぜ去勢牛の方が尿石症が発症しやすいのか?と言いますと、先ほどのご意見にあったように「去勢牛の方が尿道が細くて長く、またS状曲という部分など曲がりくねっているからなのです。「それじゃ、やっぱり雌では出ないんじゃないの?」と言うもっともな意見が聞こえてきそうですね。

 雌で問題になるのは、尿道に石が詰まる「尿道結石」ではなく、腎臓の中に石が出来てしまう「腎臓結石」です(写真1)。しかもたいていは化膿性の腎炎も併発しています(たまには腎臓から膀胱へと尿を運ぶ「尿管」に詰まっていることもありますが)。ですから直腸検査では見つけられませんし、運良くエコー(超音波)検査で届けば、強い反射物質として解りますが、なかなか想定していないとこのような検査はしませんよね。雌だし。


写真1

 でも、このような状態を放置すると、最後まで肥育できた暁に、食肉検査で全部廃棄、という悲惨なことになります。ですから、尻尾を挙げて走り回っている雌牛を見つけたら、尿沈渣の検査、BUN,クレアチニンなどの血液検査、尿検査紙による検査などを用いて速やかに判断し、出荷の体制をとりましょう。正直、雌の腎臓結石はなかなか溶けてくれないのです。どうしても治療を優先したい場合は、出荷規制のつかない方法で利尿やカウストンなどの給与による尿phの低下による結石の融解をすべきでしょう。点滴も50%のブドウ糖などを混ぜながら生理食塩水やレバチオニンを入れます(バランスの悪いタンパク質を補正して、尿phを下げる働きがあります)。

 いずれにしても、雌でも尿石症が発生すること、尻尾を挙げていたら必ず診断してもらうことが重要です。たまに、外陰部の陰毛に結石が付着してることがありますが(写真2)、そういうときはすぐに飼料の見直しとか、鉱塩カウストンの設置とか、対策を打ちましょう。


写真2

 ちなみに尻尾を上げている雌牛の、その他の原因といえば、おなかが痛い、脂肪壊死がある、尾椎の根元が折れている、ただの癖、などがあります。癖だったらいいですね。

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