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ゲストのコラム
「牛さんの気持ちになって考える(3)」

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2011年1月25日

〜 胃の状態を考える 〜

 牛さんの消化吸収を考えた時、ルーメン機能の保持が重要となります。もともとルーメンは、消化を手助けしてくれるバクテリアや原虫などの微生物が棲む、巨大な発酵槽の役割を果たしています。したがって、これらの微生物が棲みやすい環境を作ってあげるのが必要となります。
 微生物はPH6〜7の中性の状態を好みます。消化の早い濃厚飼料を固め食いすると、酸(揮発性脂肪酸=VFA:酢酸、プロピオン酸、酪酸)が生成され、PHが一気に低下します。PHが低下するとルーメン内の菌相が変わるために、消化率が低下します。ひどい場合には、アシドーシスを引き起こします。

 アシドーシスは食い止まりの原因となるほかに、蹄の病気である蹄葉炎を引き起こすことにもつながります。では、濃厚飼料を食わせながらルーメン内PHを正常に保つには、どうしたら良いのでしょうか。それは、粗飼料給与による咀嚼で、唾液を活発に出させそれをルーメン内に送り込むことです。唾液はアルカリ性で、咀嚼と反芻を行うことにより、1日に100〜180㍑も分泌され、ルーメン内のPH中性化に役立ってくれます。
 唾液の成分は重炭酸ナトリウムで、PH8.5前後のアルカリ性を示します。この唾液がルーメン発酵で生成される酸を中和し、ルーメン内の酸性化を緩衝し、良好な発酵をさせるうえで大きく役立っているのです。
 肥育牛が食べたエサをしっかり消化吸収し、食い続けられるようにするには、稲ワラなどの粗飼料の刺激が重要な役割を果たしているのです。
(つづく)

十勝農業改良普及センター 十勝北部支所
出雲 将之

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