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ゲストのコラム
「牛さんの気持ちになって考える(2)」

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2011年1月18日

〜 削蹄を考える 〜

 牛が起きたり寝たりする情景を、真剣に観察したことがありますか?写真のように、起きあがる時はヨイショと後肢でお尻を持ち上げ、前肢に体重をかけてから立ち上がります。肥育牛ともなれば体重が何百kgにもなりますが、その体重の大部分が前肢にかかりながら起きあがるのです。前肢にかかる負荷は非常に大きいと言えます。例えばツメが伸びていると、踏ん張りがきかないので起きづらくなります。起きづらいと牛さんはどうするでしょうか。(寝起きする大人の牛さんをじっと観察したことがありますが、顔が真剣になる牛もいて結構たいへんそうでした。中には足をプルプルふるわせながら、必死になって起きあがろうとするものもいました)
 お腹がすいたら飼槽に行ってエサを食べようとしますが、寝起きがしづらくなるとお腹がすいてもギリギリまで飼槽に行こうとしなくなります。そして、いよいよ我慢できなくて頑張って起きあがると、お腹がぺこぺこですから濃厚飼料を一気に固め食いしてしまいます。こうなると牛の胃の中のPHが一気に低下し、ルーメンの微生物が死滅してしまうこともあります。極端なばあいはアシドーシスを引き起こします。

 アシドーシスは、人間で言えばきつい胸焼けのような状態ですが、これが起きると第1胃の異常発酵により濃厚飼料が食えなくなります。肥育の途中で発生すると、増体や肉質にも影響する食い止まりにつながります。月齢に応じたエサの量を食べ続けることが、良好な肥育成績につながるのに、アシドーシスはこれを阻害してしまいます。
 ツメの伸びすぎぐらいたいしたことがないと思っているかもわかりませんが、重い体重を支えている足の一部であるツメが、反り返った状態で牛さんは正常に起きあがることができるか、想像してあげてください。
(つづく)

十勝農業改良普及センター 十勝北部支所
出雲 将之

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