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2017年10月2日

 最近は尿石症(正式には尿道結石症)の発生件数はかなり少なくなりました。僕がNOSAIの獣医師をしていた頃は、一番多いのがヘモか尿石症で、この2つは夜間の急患も多く大変苦労した覚えがあります。

 さて、そういう呼び出しの際に、現場到着してすぐに悩むのがこういう症例です(写真1、2)。


写真1


写真2

膀胱破裂の場合は、このように下腹部だけが腫れるのではなく、お腹全体が膨らんできますから、右側の下腹部を試験的に注射針で刺すとお腹の中(腹腔内)に溜まった尿が出てきます。

 しかし、腹腔内から尿道が出たあとに陰嚢付近のS状曲という部分などで尿道に石が詰まって破裂すると、尿は包皮の方へ漏れ出して包皮全体が腫れてくるのです。どうしてこういう症例で悩むのかというと、外見はとても似通った別の病気があるからです。
 一つは、「アタリ(挫傷)」、つまり他の牛さんに角で突かれるなどして内出血で腫れる場合。牛さんは、自分より弱い子を攻撃するときに内無双をかける(というか、後ろから内股を狙う)ことが多く、包皮周囲の血腫(内出血で腫れること)が結構見られるのです。
 もう一つは「包皮炎」といってバイ菌が入って包皮が腫れるものです(写真3)。まあ、こちらも誘因としては包皮内結石で傷がついて、そこからバイ菌が入る、というものが多いのですが。


写真3

 これらのよく似た2つの症状と尿道破裂では深刻さが大きく違います。尿道破裂であれば、バイパス手術を施したり、薬剤を投与したり、飼料を変更したりして、大元の「尿石症」を治療しなければならないからです。ですから、現場に着いたら、まず牛さんをよく観察し、直腸検査で膀胱の状態を見るとか、点滴で高調糖液とリンゲルなどを投与して排尿の状況を見るとか、試験紙でBUNを測定するとか、便の状態を見るとか、できる限りの方法で診断を付けます。
 アタリの場合は、左右で形が違うことも多いんですよ。尿道破裂でなければめでたしめでたしで、そんなに処置に手間がかかりませんが、尿道破裂であれば、先ほどお話ししたように結構その後の処置が大変なんです。

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