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松本大策のコラム
お尻から腸が出てきた!

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2017年8月25日

 みなさんは、こんな経験(あ、みなさんじゃなくて牛さんですよ)ありますか?もちろん本物の直腸が飛び出してくる「直腸脱」というものもありますが(写真1)、こちらは便と一緒に地面に落ちていることはありません。そうではなくて、「腸みたいなうにょうにょしたものが出てきた!」という経験です。


写真1

 あれは実際には腸ではなく、『偽膜』といいます。みなさんが膝っこぞうを擦りむいたりしたときに、かさぶたが出来て傷口を保護しますよね。腸だって表面が傷つくと、表面にかさぶたが出来ます。ただし、膝っこぞうに出来るような堅いかさぶたでは、腸の動きがうまくいかなくなりますから、ゴムのような弾力にあるかさぶたが出来るのです。これが偽膜(ぎまく と読みます)です。

 偽膜が出てくるから偽膜性腸炎というのですが(写真2)、大まかにサルモネラ菌による腸炎の時に血便に混じって出てくるタイプの偽膜性腸炎と、セフェム系抗生物質(セファゾリンなど)を使ったときに副作用(言葉的には本来の意味とは違うのですがご勘弁ください)的に出てくる偽膜に分かれます。


写真2

 サルモネラなどによる偽膜性腸炎は、ニューキノロン系抗生物質と静菌剤で抑えていけばよくなってくれることが多いのですが、これも早めに手を打たないと腸管が壊死してくると、手術もやっかいですし、助からない子も多くなります。

 さて問題は、セフェム系抗生物質使用の副作用による偽膜です。これは肺炎の治療などでセフェム系抗生物質を長く使うと、この薬は肺だけでなく全身を回って腸管内にも作用します。このときに腸内細菌で強いものまで殺してしまうので、バイ菌としては普段はおとなしくしているけれど、セフェム系抗生物質には強い『クロストリジウム・ディフィシル』というバイ菌が暴れ出して偽膜性腸炎を起こすのです。肺膿瘍の時にお話しした「菌交代症」というヤツですね。セフェム系抗生物質でジャイアンをやっつけちゃうとスネ夫が暴れ出す、っていうタイプです。

 肺炎の時にセフェム系抗生物質が効果的と判断したときに、菌交代症による偽膜性腸炎を起こしたくない場合(起こしたい場合ってないと思いますが...)、コバクタンやセファガードというセフェム系抗生物質は便利です。この2つ(成分は同じ)の抗生物質は、腸に分布しないので、菌交代症を起こさないのです。

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