(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
ゲストのコラム
「舞子ぷらずま☆—プラズマキッチン便り—最終回」

コラム一覧に戻る

2010年7月27日

〜 日本人と食、そして口蹄疫 〜

 今朝の新聞の一面に、「口蹄疫による宮崎県の家畜の移動・搬出制限区域を解除」のニュースが大きく出ていました。甚大な被害と払った犠牲を思うととても手放しで喜べないけれど、とりあえずの大きな一区切りというところでしょうか。この舞子プラズマキッチンシリーズを書き始めた当初は、日々感染拡大が報じられていた時期、このままでは日本の畜産は破たんしてしまうかもしれない…と、本当に怖かった。そのことを思えば油断はできないにしてもこうして「終息」の文字が見られたことに、素直にほっとしています。

 今回のコラムでは、色々と「食」について考えました。日本の食卓の危機が叫ばれている現代ですが、それでも日本という国は、世界的に見ると、かなり食に対して熱心な国なんじゃないかと思います。食べ物を単なるエネルギー源としてでなく大切に扱う習慣、世界用語となった「もったいない」の精神は、薄れてきているとはいえまだ生活の根底に残っています。さらに、生キャラメルや食べるラー油などのように、食の分野に大きな流行があり、消費者がこれだけ敏感に呼応する国民文化も、割と珍しいかも。日本は食に対する、興味・関心が高い国なのだと思います。

 今回の口蹄疫は、大変な事件として大きく報道されましたが、畜産関係者が心配したヒステリックな風評などもあまり見られませんでした。嫁舞子がよく行く、普段から宮崎牛に力を入れていた和歌山の地元スーパーでは「がんばれ宮崎」の特設宮崎牛コーナーが出現、その牛肉も普段どおりに売れているようでした。各産地の子牛を有名産地が丁寧に肥育することによって所謂ブランド牛が作られるということ、スーパー種牛の存在、血統と品質を守るための産地の努力なども報じられ、はからずも消費者が、割と特殊な業界である畜産のリアルな一面を知る機会になったのではないでしょうか。今回、風評被害がそう大きくならなかったのは、報道のおかげなのではなく、畜産業界全体が普段から高品質で安全な食肉を提供していたからというバックボーンがあったからに他ならないと思っています。そこは思い切り誇ってもいいと思うのです。

 今日の一応の終息宣言で、報道はさらに下火になり、消費者の関心は離れていくでしょう。ここからが私たち畜産関係者の頑張りどころかなと思います。今受けている大きな傷はまだまだ癒えないし、根の深い本当の被害はこれから先に山積しています。でも、少なくとも口蹄疫の前よりは、畜産業界と消費者の距離は近くなり、理解は深まった。私たちが良いものを作る努力を諦めず、理解してほしいポイントは訴え続けてゆけば、食に関心の高いこの国ですから、畜産業界の立ち直り、さらには新しい地点への進化にまで繋がることだってあると思います。そして、宮崎とその近隣県、ひいては畜産業界全体が手を取り合って立ち直ることによって、今回払った大きすぎる犠牲も少しは報われると、私は信じています。
(おしまい)
               著:黒沢牧場 上芝舞子

|