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ゲストのコラム
「舞子ぷらずま☆—プラズマキッチン便り—第6回」

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2010年6月29日

〜 地域の食文化<2> 〜

 地域の食文化の話で私が住む和歌山といえば…、避けて通れないのが、和歌山南部の太地町のイルカ漁を非難した映画「The Cove」かな。アカデミー賞をとったことで話題になり、映画内で漁の撮影方法が盗撮だったことが非難を浴び、その後日本で続々と上映中止になったことがさらに議論を呼んでいる問題です。

 和歌山に住んでいる身としては、まずこの映画のスタンス自体にかなり不快感を覚えます。「関係者が撮影を許可しなかったから、盗撮しちゃいました☆」「悪いことしてないんだったら撮影させてくれるでしょ」っていうマスコミ関係者にありがちな偽善的エゴイズムが許しがたい。日本語も話せない外国人が来て、デリケートな国際問題であるイルカ漁を取材させてくれって言っても、まぁ普通断るでしょう。断られたら盗撮もやむなしという姿勢は、甘えてるとしか思えません。取材対象に自分の手の内を見せて、長い時間をかけて対話をして取材を許可してもらい、中立的な目線を保って内容を作り、そして世に問うのがジャーナリストやマスコミ人のあるべき姿じゃないの?自分は隠れて、こちらだけに全てを見せろというのは勝手すぎるし、プロのすることじゃない。私は、この映画は、その存在のあり方からして間違っているが故に、センセーショナルではあるけれどドキュメントとしての価値はないと思っています。

 ただ、このご時世、イルカ漁の是非については、この映画とは離れたところで別問題として考え、自分の考えを持つ必要に迫られているのかなと思います。伝統の食文化であっても、時代に合わせて変えていくべきなのかどうか。その判断基軸となる文化的禁忌や価値観は、社会や宗教によって驚くほど違うものですが、最終的には個人が自発的に判断をするべきであり、他者が強要するものではないと考えています。私個人としては、その地域で獲れる資源を食すことは貴重な食文化だと思うし、法令と常識の範囲内であれば「感謝の念をこめて無駄なくいただきます」でいいんじゃないかと思うんですけどね。

 このグローバルな時代、メディアの発達によって多くの情報を知ることができ、多様な文化に触れられるのは素敵なことです。ただ、そのことで妙な軋轢が生まれることもあって、それは今後増えていくことと思います。生き物と食を扱う畜産に関わっている私たちなら、きっとなおさらのこと。多様な文化・価値観への好意的な眼差しと、きちんとした自分の価値観がバランスよく持てる、賢い人でありたいと思います。
(つづく)
               著:黒沢牧場 上芝舞子

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