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松本大策のコラム
あ、穴がない!

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2017年7月24日

 世の中、穴がないと困るものがたくさんあります。たとえば竹輪なんか、穴がなければチクワとは呼べませんし。レンコンに穴がなければ熊本名物「辛子レンコン」も作れません。太ってきて、ベルトの穴が足りなくなったら、新しく穴を開けなければ使えないわけです。

 冗談はさておき、この牛さんほど「穴がない」で困る状況もないのではないでしょうか?なんと、生まれてみたら肛門がなかったのです。これはそれほど珍しい危険ではありませんが、きちんと処置しなければ、必ず死ぬことになります。

 このように、肛門のあるべき位置に穴がない状態を「鎖肛(さこう)」と呼びます。いくつかのパターンに分けられ、腸は肛門の場所まで来ているけど、皮膚が覆っている状態から腸管自体がおなかの中のどこかに隠れている状態までいろいろです。

 おなかの中に腸管が隠れていて、そもそも肛門のあるべき部分〜離れてしまっているときは、おなかを開けて、その後肛門を作って、腸の端っこのめくらになった部分を開いて、作った肛門に縫い付けるという手術をすることになります。場合によっては(腸の端っこがまだ肛門の位置まで届かない場合など)、一度おなかの壁に穴を開けてそこからうんちを出してあげるようにして、少し成長してから肛門の位置まで持ってくることもおこなわなければなりません。
 後者の場合は、畜主産にお話しをするとあきらめてしまわれるケースがほとんどです。僕たちも子牛はかわいくてたまらないけど、これから将来経済的に見合うかどうか解らないことを畜主さんに押しつけることも出来ません。この奇形は人間でも発生しますし、防ぐ方法も確立していません。
 ただ、正常な子牛が生まれてくれたら、ただ万歳ではなく、「小さな奇跡が1つ起きた」と心に刻んで、子牛をより大切に育ててあげましょうね。

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