〜 作って、食べる<3> 〜
昨年から、黒沢牧場では、試験的に子牛肉用の子牛を育てています。
子牛肉の料理って、結婚式やフレンチレストランなどで「子牛肉のローストなんとかソースがけ シェフの気まぐれほにゃららとともに」みたいな感じでお目にかかるくらいで、家庭ではあまり食べませんよね。そもそもスーパーに売ってないし、お肉屋さんでも見たことないし、プロ用の食材という感じ。でもヨーロッパなどでは、割と一般的な食材で、カツレツやソテーにして古くから日常的に食されているそう。有名なのは「ウィンナ・シュニッツエル」と呼ばれる子牛肉のカツレツです。
そんな子牛肉、嫁舞子にとっても、結婚式などで食べたような…という程度、印象に残っていませんでした。「肉質は緻密で脂肪分が少ない」「柔らかで淡泊な味わい」「フレンチでは、フォアグラやソースなどを足して一皿にするため、淡白な味の子牛肉が好まれる」などと評されているのをみると、肉としてはおいしそうでもないなぁ、なんて。
そんななか、先日、主人が育てた子牛の肉が手に入ったのです。野菜などの農家と違い、畜産農家は自分の育てたものを口にする機会を得にくい業界ですが、和牛に関しては繁殖のみの我が家はなおさらその傾向が強く、主人の育てた牛さんを食べるのは初めて、しかも牛肉ではなく子牛肉というWの珍しさ。まずは、サシのないきれいなピンク色ながら赤身とも違う感じの肉を、夫婦ふたりでじっくり眺め回しました(笑)。まずは塩コショウをしてから薄く小麦粉をはたき、フライパンで焼くことに。強火で外側に焼き目をつけて…という、サシの入った牛肉の食べ方が頭を離れず、薄切りで脂のない肉は、焼き加減が難しかったです。その後、下味と衣をつけて「ウィンナ・シュニッツエル」に挑戦!
結果…、とってもおいしかったのです!焼肉やステーキのような野性味はないものの、かすかにミルキーなしっかりとした肉の味、脂はなくても柔らかく、まあるい味です。低カロリーの肉といえば鶏ささみなどを想像しますが、繊細さと味わい深さは段違い、これはフォアグラなんか載せなくても一般家庭のレシピで十分おいしい!牛肉といえば霜降りの牛肉をじゅっと焼いて食べるという固定観念を覆す、牛肉の延長というより新ジャンルという感じ。
実際のところ、ヘルスコンシャスな食生活が根付いてきている今、レストラン業界などでは国産の子牛肉へのニーズは静かに育ってきているようです。牧場の嫁舞子としては、もう一歩進んで一般家庭でも手軽に調理できるまで流通してほしいな、なんていう夢を抱いています。
(つづく)
著:黒沢牧場 上芝舞子