(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
松本大策のコラム
疝痛のお話し

コラム一覧に戻る

2017年7月10日

 みなさん「疝痛」って聞いたことがありますか?よく時代劇で(いや、最近時代劇ってあるのか?)、町娘が道ばたで「持病の癪が...」とか言ってるやつ。あれのことで、簡単に言えば「おなかが痛い!」ってことなんですけど。何だ、そんなことか、といわれてしまうとそれまでなのですが、意外と牛さんで、疝痛の症状が見落とされているので今回は疝痛のお話をしようと思います。

 『疝痛』と一口にいっても、当然その原因はいろいろとあります。まあ、よく見かけるのが、腸のケイレンで起こる『ケイレン疝』。これは、みなさんが腸が引きつるみたいに痛いト感じるあれです。中には腹膜のケイレンみたいなものもあるのですが(むかし走ったときに横っ腹が痛くなったりしたことありませんか?あれです。)、多くはおなかを壊したときに起こる腸の痛みです。
 このときは、『スタニウスの疝痛姿勢』とよばれる一連の変な挙動が見られます。おなかを蹴ったり、身をよじったり、後足を後ろに引いていたり、背中を丸めていたり、逆に背中を変にたるませていたり、うずくまっていたり、といったいろんな姿勢をとります。「パドリン」という注射で劇的に改善することが多いのですが、腸が浮腫(むくみ)を起こしていたり、ちょっとねじれていたりすると、パドリンを打っても痛みは治まりません。そんなときは獣医さんにすぐ見ていただいて、腸や第4胃の捻転がないか、他の嫌な病気はないか、などきちんと診察していただきましょう。

 腹痛だからと体温も測らないようではいけません。感染症で腹痛が起こっている場合は、発熱が見られることもありますし、『エンテロトキセミア(最近の出す毒素で参ってる状態)』では、血圧が生かしたり貧血が出たりしています。その場合は、抗生物質とか輸血とか、診断によっては抗血清を使ったり、とかいろんな処置が必要です。

 さて僕の経験では、腹痛があるときは、まず尿石症を否定しなければいけません。遅れると膀胱破裂を起こしてオペで助けられないケース(膀胱破裂と言っても、膀胱がはじけてるわけではなくて小さな穴が空いていることが多いのですが、中には腎臓の包膜がズタズタになっているケースもあるのです)が出てきます。それから19ヶ月齢以降では、『脂肪壊死症』も考えなくてはいけません。直腸検査をおこなってみて、それでも深いところにあると分からないので、圧診して痛みを示すか?、便の状態は?など見ていきます。

 珍しい症例では『急性膵壊死』というものがあります。これは(なかなか牛さんは我慢強いので表面上見そう見えないことが多いのですが)おそらく激痛です。なぜ解るかって?僕も何回かやって入院してるからですよ(笑)。このケースでは、通常肝臓の検査で測定するGGT(以前はγ-GTPといってました)が単独で上昇していました(経験したのは3例ほどですけど)。僕の推測に過ぎませんが、膵炎の原因のトリプシンという酵素が、胆管を逆流して胆管の細胞を破壊するためにそこに含まれるGGTが上昇するものと思われます。

今回のビデオは、子牛のケイレン疝の症状です。

|