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松本大策のコラム
肝膿瘍という病気と「動物はちくわなのだ!」のお話 その3

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2017年7月7日

 身体の表面(上皮)を護るには、ビタミンAと亜鉛が大切だというお話までしました。これらの栄養素が不足すると、上皮がフケみたいになってバイ菌が侵入しやすくなるため、たとえば第一胃粘膜にフケができると、そこからバイ菌が侵入して、門脈という血管を通って肝臓に流れ着き、そこで毛細血管に詰まってしまい膿瘍を起こすのが『肝膿瘍』というわけです。
 でも、ちくわの穴は第一胃だけじゃありませんよね?もしも腸にフケが出たら、バイ菌がくっついたり侵入したりして、腸炎の原因になります。

 他も考えてみましょう。昔、ご先祖様が水の中で生活していた頃は、水中の酸素を『エラ』から吸収して暮らしていました。でもあるとき、何を考えたのか陸上に上がってしまったので、『エラ』では十分な酸素を吸収できなくなりました。だから、空中の酸素を効率的に吸収できるように、「外の世界」を口からググッと身体に中に引っ張り込んだのです。これが『肺』ですね。ですから、肺の粘膜も「外の世界」に接している表面(上皮)なのです。ですから、ここにフケが出ると、酸素の吸収効率が低下したり、バイ菌が侵入しやすくなって肺炎をおこしたり、と非常にめんどくさい状況になるわけです。

 さて、最後に『子宮』について考えてみましょう。ご先祖様は、水の中でも、それから陸に上がってからもしばらくは、卵をあちこちに産み落としていました。でもそうすると、魚や鳥、他の動物たちがやってきて卵を食べてしまいます。これでは、せっかく卵を産んでも子孫を残すことができません。
 そこでご先祖様は、産卵場所をこれまたググッと体内に引き込んで、安全な産卵場所を確保したわけです。これが子宮です。ですから子宮内は、もともと外界で、子宮内膜も身体の表面というわけです。そこで本題ですが、もしもビタミンAと亜鉛が不足して子宮内膜上皮にフケができたらどうなるでしょう。卵管膨大部で卵と精子が結合して受精卵(業界では初期胚と言います)ができ、卵管をころころ転がって、ようやく子宮にたどり着き、そこで子宮内膜に「お母ちゃんっ♡」としがみつきます。これが『着床』です。しかし、せっかく受精卵がしがみついたのに、粘膜上皮がボロッとはがれてしまったら、受精卵は「あれーっ」と谷底に落ちてしまいます。これでは受胎しませんね。他にも、バイ菌が侵入しやすくなって子宮内膜炎の原因となったりします。

 肝膿瘍から、身体の表面の細胞のお話、そしてその上皮細胞を保護するビタミンAと亜鉛のお話と流れてきましたが、ビタミンAも亜鉛も大切な働きをしているでしょ?この2つの成分は、他にも200以上の働きを持っています。そのお話は、またいずれ考えをまとめてからにしますね。

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