(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
笹崎直哉のコラム
戸田獣医師からの助け舟~Sound of O・NA・KA②~

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2017年3月13日

 皆様お疲れ様です。先日、診療終わりの夕方事務所に戻ったら、ちょうど松本社長が事務所で書類の作成をしている最中でした。せっかくの機会だったので診療のことなどじっくりと話を交わしました。以前社長には「卵胞嚢腫のお母さん牛は子宮内膜炎を併発していることがあるので、腟鏡を用いた精査と子宮の触診に注意するように」といった課題や「診療ではエコーに頼りすぎないように。卵巣に成熟卵胞があるからといって発情とは限りません、しっかりと自分の手で子宮の運動(収縮力)性を確認するように」といった注意点をもらっていたのでその実施結果を報告したりと話が盛り上がり充実しました。

しかし充実した時間もつかの間、私が帰宅準備中に「笹崎先生、マクロライド系の抗生物質を5つ以上挙げなさい」と社長から問題を出されて、「あ、、、えーと、、、す、すみません2つしか分かりません」と非常に恥ずかしい回答(泣)。その日は肩をガックリ下げて帰宅しました。まだまだ知識が足りませんねー、反省です、、、。
 
 
 さて前々回のコラムの続きに入ります。牛さんの右腹部に聴診器の先端(チェストピース)を当てた状態で、お腹を揺らすと聴取可能な「拍水音」について説明しましたが、私はこの「拍水音」を見落としていたことで牛さんの治療で失敗したことがあります。実際の失敗として、肥育牛の腸炎治療例があります。その牛さんは初診時に水様下痢を呈していたのですが、治療開始してから3日目の診察時に締まりのある良い便をしていたので、右腹部の拍水音が残っていたのにも関わらず安易に治療を離してしまいました。すると翌日、、、

これでもかというくらいの豪快な下痢便を私の目の前で排泄した牛さん(泣)。その瞬間「昨日の診察時の聴診で聞こえた拍水音の正体がこれだったのか」と脳裏に浮かび反省。「良い便をしていたから治癒しただろう」という判断が、結局牛さんの大事なサインを楽観視した故の失敗につながりました。その後はしっかりと拍水音やその他異常音が聴診上で消失するまで素直に治療を押しました。また別の診療の際にも自分の診断に自信がない時などは戸田獣医師を呼んでリチェックしてもらうこともありました。

 牛さんの腸炎のうち細菌腸炎、特にClostridium perfringes の感染による下痢では腐臭性のガスを産生しながら増殖することで小腸が膨大するため、右腹部では拍水音や有響性金属音が聴取できます。これが理解できた上で治療に用いる薬剤を選択すれば治癒への近道となります。また出血性腸炎の症例に関しても本菌の感染とコクシジウムの混合感染が原因として考えられることが多々ありますので、やはり聴診は怠ってはいけませんね。また先日紹介したように、右腹部の拍水音は腸内の異常発酵でガスの産生が亢進している時以外にも、腸管が捻じれたり(腸捻転)、腸内容物が詰まったりしてガスが通過しないケース(腸重積)、腸管が穿孔し腹腔内に腸内容物が漏れてしまった場合(腹膜炎)にも聞こえる異常音でもあります。よって非常にポイントとなるサウンドであり、「牛さんの体の中で何が起きているか」イメージするときの有効なキーサウンドになってくれます。

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