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ゲストのコラム
「牛から視たエサの話−33 「脂肪の話題(4)」 (東京都 村田六蔵)」

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2008年12月16日

 酪農の仕事もしていますので少し乳牛についての話をします。よく食肉市場に行くと、乳牛のメスの廃用牛の枝肉が出てきます。大体、廃用になるのですから、調子が悪くなった牛なのですが、それらをよく見ると色が褐色化したものや、ひどいものでは泡でも吹いたような状態での皮下脂肪があります。これらは、脂肪が酸化してしまったものですから、牛の体全体が酸化ストレスになっていたものと推測されます。
 問題は、どうして酸化が起こってしまったか?ということです。前の話ですが、ルーメンでの不飽和脂肪は水素添加で飽和脂肪に変換されますが、この機能が不十分であれば、不飽和脂肪が多くなってしまった体脂肪になってしまいます。不飽和脂肪酸が多いものは、融点(固体が液体になる温度)が下がるのですが、もう1つの問題として、非常に酸化されやすいという欠点があります。わかりやすい例では、てんぷら油は何回か使っていくと茶色から褐色になりひどくなると黒色になります。またてんぷら油やサラダ油を長く置いておくと臭いが変って傷んできますが、これらは、酸化してしまった結果です。
 乳牛の場合には、濃厚飼料と粗飼料のバランスがぎりぎりのところが多く、粗飼料の品質が悪くなったりして、暑熱ストレスなどで粗飼料の摂取量が減少しても濃厚飼料を給与量を減らさないためにルーメンでの唾液分泌が低下すると、体脂肪に不飽和脂肪酸の割合が高くなってきます。そのために、体脂肪での酸化が起きてしまい、さまざまなトラブルが発生してしまう原因の1つであると考えられます。その結果として、食肉市場で乳牛の廃用で褐色した脂肪が見られると思います。
 この体脂肪の酸化については、アメリカなどで研究されており、体で酸化が起こると、対策として抗酸化物質である、ビタミンEやセレンなどが使われるので、この時には、ビタミンEやセレンを給与する必要があるとしていますが、抗酸化物質が過剰に使われると他の部分で不足が起こりやすくなるために、特に乳牛では、粘膜免疫機能に障害が起こりやすくなり、乳房炎の罹患率が高まるリスクも増すこと思います。
 これらの根本的な解決は、繊維分のある嗜好性よい粗飼料を充分に与えることだと思います。

(つづく)

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