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戸田克樹のコラム
第105話「いのちから学ぶこと」

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2016年10月4日

 診療にて、自身の未熟さを痛感した症例があります。

 先月、とある農家さんから「呼吸がはやい牛がいる」との稟告を受けて往診に向かいました。鹿児島はまだ気温が高く、さらに湿度も高いという肥育牛にはつらい状態が続いていました。「熱中症かな」くらいにしか思っていませんでしたが、現場にいたのは努力性呼吸を呈していた肺炎の牛でした。農家さんは昨日までとくに気づかなかったとおっしゃっていました。また、相手は生後20ヶ月の牛。まだまだこれから、という牛でした。

脱水もあり、肺音は連続性ラッセル音(+´)。
つながれるのを嫌がり、呼吸は苦しそうでしたが、なぜか体温は38.5度。
 
 
「熱はないし、気温・湿度も高いから、脱水状態を改善し、涼しくしてあげれば症状は改善するのかもしれない。農家さんも昨日まで気づかなかったくらいだし…。」

そう判断し、点滴を実施するとともに抗生物質と消炎剤を投与し、4日間の出荷規制をつけました。状態が良くなく、急変の可能性も伝え、規制も短いものしか使用しない旨を伝えました。

翌日になっても状態はかわりません。脱水はなくなっていました。
なのに呼吸様式が戻らなかったのです。

むしろ昨日より悪い気がします。
体を揺らして、がんばって空気を吸っていました。食欲もありません。あまり座らないようです。
肺ラッセル音にもまったく変化がありません。

まずい。

頭の中を嫌な考えがよぎりました。

危険な状態にあることを伝え、廃用出荷を農家さんに相談しました。
農家さんにも納得してもらい、出荷のてはずを整えました。
 
 
ただ、出荷日が明日となった日の朝、その牛は死亡しました。
 
 
間に合わなかったのです。
初診時の状態から即日出荷を決断しなければならない状態にあったということです。
 
 
熱がない
明らかにおかしい呼吸
ギラギラした目つき

今思えばやはりおかしかったのです。
牛を前にしたとき、農家さんと話すとき、その牛を治療すべきかどうなのか見極める力をもっとつけなければいけません。

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