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戸田克樹のコラム
第104話「こんなときの血液検査③~食欲がないPart 3~」

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2016年9月27日

 先日、休日を利用して実家の墓参りへ。
 小さな霊園の周囲は休耕田に囲まれています。そこにあるのはかつて誰かがそこで米を作っていたであろう痕跡だけです。今は雑草が生い茂り、段差さえ不明瞭。驚いたことに、私が小さいころはまだそこで農業をしている人がいたというのです。たった20数年で田畑はこんなにも荒廃し、農業のあった風景は壊れてしまうのかと、少し切なくなってしまいました。畜産もまたしかり。牛のいなくなった牛舎、農家さんのいなくなった家というのは目にすると淋しくなってしまいます。今、目の前にある風景を、大切にしていきたいものです。

 
 

 さて、分娩予定日が近づいた母牛の食欲不振で着目すべき検査項目とは何でしょうか。

 コチラが患畜の血液検査です

 
 

正解は

Ca(血中カルシウム濃度)でした。

 普段は黒毛和種しか診察しないのですが、健康な母牛であれば9.0 mg/dL以上はあってほしいところ。ところがこの母牛は7.4 mg/dLという非常に低い数値をたたき出していたのです。「低カルシウム状態かどうか」は聴診や観察だけではなかなか見つけることができません。科学技術の発達がもたらした血液検査の恩恵をすさまじく受けることができました。
 低カルシウム血症という診断名のもと、カルシウム製剤の投与を開始です。繁殖牛であれば、血管から、あるいは皮下点滴で投与します。肥育牛も出荷時期が近づいてくると低カルシウム状態に陥ることがありますが、このときは(株)ゼノアックのドン八ヶ岳など、経口で補給するのが良いでしょう。点滴投与した後に容体が急変した事例があるのです(汗)。もちろん繁殖母牛でも経口投与はOKです。

 では、なぜ分娩前の母牛は低カルシウム状態になりやすいのでしょうか。

 分娩前は子牛の骨格が急激なスピードで形成されていきます。母体の血液中のカルシウムは子牛の体をつくるために、どんどん消費されていくのです。さらに、生まれてくる子牛のために、母乳も作っておかなければいけません。そしてさらに母体のカルシウムは消費され、通常保っておきたい数値を下回ってしまうのです。

 出産前からすでにお母さん牛は自分の体にムチ打って子どもために頑張っているのです。
あぁ…なんて感動的なのでしょう。

 なぜ低カルシウム状態で食欲が減退するのか、血液検査で見つかった他の異常値についてはまた次回

 つづく

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