(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
笹崎直哉のコラム
Activity② ~カルシウム&リン&ビタミンD3~

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2017年3月28日

 皆様お疲れさまです。ついこないだ、いつものように仕事終わりに自宅で夜ご飯を食べていました。ふとテレビを見ていたら「静岡で25頭の黒毛和牛を一人で育てる農家さん・・・」というコメントが耳に入り、思わずお箸を止めました(職業病ってやつですね、やれやれ 泣)。どうやら牛肉を使った料理番組のようでその牛肉の提供元農家さんを取材するといった特集を組んでいました。驚いたのは、その農家さんが「20代女性、牛さんの肥育は独学おまけに1人経営」、「2年連続枝肉共励会で農林水産大臣賞受賞」。私は思わず「す、すげえ!」と声が出てしまいました。そんな中番組が終盤に差し掛かり、その女性が最後に残したコメントが私の胸に突き刺さりました。「この仕事を継続してできるのは牛がただ単に好きだからです」とさらっと発言していましたが、その言葉には牛さんに対する非常に強い愛情が込められているのだと私は捉えました。ただでさえ肥育の牛さんの生涯は2年間程度。短いですよね。はやり理想としては病気をせずに、沢山食べて、そして最後には消費者に美味しいと言われるように大切に育ててあげることがその牛さんの幸せにつながるのではないでしょうか。今後ともこの考えを決して忘れないように、感謝をもって診療しようと改めて思いましたm(__)m
 
 
 それではコラムの続きに入ります。
 いつも血液検査ではカルシウムの値を気にしすぎてしまうのですが、実はカルシウムとリンの血中動態は似ていることが多いのです。
ここで登場するのがビタミンD3です。このビタミンこそ「消化管におけるカルシウムとリンの両方の吸収を促進」させてくれるのです。
リンの生理作用は骨や歯といった硬い組織の作成が中心ですが(現に体内のリンの8割は骨や歯に存在します)、エネルギーの発生をはじめ、体の代謝を支えるミネラルとして考えられています。

 カルシウムは上記のリンの生理作用に加え、血液の凝固作用に関与したり(例えば獣医さんが牛さんに点滴して、終わったときに針を抜いたら血がずっとポタポタと垂れて止まりが悪い時、血小板だけでなく血中のカルシウム値が少ない時が多いです)、筋肉の運動、刺激に対する神経の感受性を穏やかにする作用も持っています。

 これをもとに私は主に牛さんの治療、予防でビタミンD3を以下のケースで使っています。

・筋肉の運動をターゲットとした利用
→カルシウムは体全体を動かしてくれる骨格筋はもちろんのこと、例えば胃や腸、子宮、卵管etc…の運動にも必須アイテムなので、お母さん牛の分娩前後のトラブル(起立不能、胎盤停滞)に使います。実は先ほど卵管という話も上がりましたが、種付け後の受胎(卵を子宮に運ぶ卵管の動きに着目)にもカルシウムは大きく関わってきますよ。

・カルシウム代謝を目的とした投与
低カルシウム血症や骨軟症で利用しますが、消化管におけるカルシウムやリンの吸収を促進させてくれます。なので経口でカルシウム、リン剤を摂取させることはいつも欠かさずに行っています。

・肺炎時に併発することの多い骨軟症の治療、予防のために注射
シェパードで行っている「肺炎後処置」の投与プログラムでビタミンD3が欠かさず入っています。これがこの骨軟症の治療や予防につながっています。骨軟症になると、これでもかというくらい牛さんの増体が悪くなりますよね、、、厄介な疾患です(´;ω;`)

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