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蓮沼浩のコラム
第856話:世の中の流れ その3

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2025年12月16日

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肥育期間という「当たり前」を、そろそろ疑ってみる。

今回のコラムの「世の中の流れ」を一言で表すとするなら、「肥育期間の再定義」とでもいえましょうか。

最近、「肥育期間を短くしながら、しかも成績は今より良くする」という目標を本気で掲げて取り組むケースが増えてきました。背景には、飼料価格の高騰、人手不足、回転率の向上、資金繰りの安定化など、さまざまな理由があると思います。正直なところ、「できれば早く出したい」というのは、今に始まった話ではないようにも思います。ただ、「肥育期間を短くする」といっても何だか「ふわっ」としています。

和牛なら30カ月齢くらい?F1なら26カ月齢くらい?

多くの現場で、何となくこのあたりの数字が“常識”として共有されているのではないでしょうか。しかし、この「何となく」が、実は一番あぶない。そこで今回は、感覚論をいったん横に置いて、家畜改良センターさまのデータを用い、令和6年度の肥育牛のと畜月齢を整理してみました。

結果を見ると、黒毛和牛では28カ月齢が最もボリュームの大きいゾーン。F1肥育では25カ月齢がピークです。

「ですよね~!」

多くの方が、思わずうなずく数字だと思います。現場感覚とも大きなズレはありません。ただし、ここで「やっぱり平均はこの辺か」で終わってしまうと、このデータを見た意味がなくなってしまいます。大事なのは、「全国平均がこうだから、うちもそうする」ではないという点です。肥育期間とは、単なる月齢の話ではありません。それは、その牧場の管理レベルであり、設計思想であり、「この牛を、どのステージで完成させたいのか」という、いわば牧場の性格そのものです。全国のボリュームゾーンを知った今、次の問いは何かといいますと・・・。自分の牧場は、このゾーンのどこで勝負するのか。そして、そのために何をしていくのか?肥育期間を見直すということは、突き詰めれば、経営そのものを見直すことに直結します。

ここで少し視点を変えてみたいと思います。実はもう一つ、見逃してはいけない事実があります。それは、牛そのものが昔とは別の生き物になっているという点です。品種改良のスピードは、正直に言って恐ろしいほどです。今の黒毛和牛やF1は、発育能力も、肉質形成のタイミングも、脂肪交雑の入り方も、20年前、30年前の牛とは明らかに違います。

それにもかかわらず、「肥育期間に対する考え方」だけが、昔のまま止まってはいないでしょうか。「肥育期間を短縮して成績を上げる」という取り組みは、実際には、仕上げ期を無理に削っているケースばかりではありません。多くの場合、品種改良が進んだ現在の牛に合わせて育成期~肥育前期の設計精度を上げ、結果として仕上げ期の「なんとなく延びていた時間」が消えている、という構造になっています。短縮の本質は、月齢を削ることではありません。「時間で何とかしよう」とする経営から、最初から「設計で揃える」経営へ移行している。そう捉えたほうがしっくりきます。もちろん、簡単な話ではありません。ですが今はまさにそのアップデートを迫られている時代だと、小生は強く感じています。
 
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今週の動画
「しぶり」という症状について

下痢症の子牛で、「しぶり」という症状がみられることがあります。

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