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松本大策のコラム
お薬のお話し その3

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2016年6月20日

 これまで抗生物質のお話しをしてきましたが、今日は、最近何かと話題になる「モネンシン」のお話しです。はじめにお断りしておきますが、僕自身はモネンシンに対して「擁護派」でもありませんし、「反対派」というわけでもありません。しかし、今日は僕なりの考え方を3点お話しします。

 よく農家さんから「モネンシンを入れたら肉質が落ちた」とか、「発育がよけい悪くなった」などのお話しを聞きます。しかし、「モネンシンを入れる」ことは農家さんにも獣医さんにも不可能なはずです。なぜならモネンシンは「飼料添加物」であり、単体での使用は、獣医師にも禁じられているからです。何を言いたいのか?っていうと、「モネンシンを入れたら」ではなく「モネンシン入りの飼料を使ったら」ということなのです。
 どう違うかというと、モネンシンは第一胃の発酵を整えてくれますから、逆に言うと「ある程度いい加減な配合割合の餌」でもガスや下痢、ルーメンアシドーシスなどが出にくいわけです。つまり安い、いい加減な原料を使って安い餌を作ることもできる、ということです。
 もちろん大半の飼料メーカーさんは切磋琢磨していいものを作っているはずです。しかし中には、粗悪な原料でモネンシンの力を借りていい加減な餌を安く売ってるメーカーもあると言うことなのです。
 そのような餌を使うと肉質が低下したりするのは当たり前ですから、モネンシンの影響を判断するには、同じ餌に「モネンシンを配合してもらった群」と「モネンシン抜きの同じ餌の群」を同時に試験しなければなりません。気候とか、病気の関係も排除しなくてはならないので必ず、2つの群を同時に試験するのです。結果は、それぞれの牧場で見なければ分かりません。僕自身は、飼料との相性(その飼料による第一胃発酵の菌叢)があると思っています。
 モネンシンの発酵調整作用は強力なので、僕も盲腸拡張とかアシドーシス体質の牛さんなどには、保存治療の一貫として使うこともあります。

 2点目ですが、マイコプラズマが蔓延している、もしくはマイコプラズマが入っている農場では、モネンシン入りのスタータは使わないように指導しています。
  実は、「スタータにモネンシンを入れよう」と提案して農水提出用のデータを作ったのは、僕です。そのころ、バイコックスのような有効なコクシジウム防除薬もありませんでしたし、マイコプラズマも、現在のような猛威をふるっていなかったので、そのような提案をしたのです。
 しかし、現在はコクシジウムのコントロールもたやすくなり、哺育農場でもっとも注意すべきは、マイコプラズマなどの肺炎です。

 マイコプラズマに効果のある薬剤(チムアリン)とモネンシンの併用は、中毒症状を起こすことがあります。その原因は、モネンシンとチアムリンは同じ処理系で分解されるのですが、そこで分解速度が遅くなる、あるいは分解効率が悪くなるために、毒性が現れてしまうということです。僕自身は1/1000頭の危険を減らすために必死で農場を管理しているので、哺育農場でマイコプラズマに汚染されているところは、モネンシンの有効性とマイコプラズマの防除のどちらに重きをおくか、慎重に考えなくてはいけないと思います。

 最後の一点は、これは理論のお話しではないのですが、「市場は理屈ではなくムードで動く」と言うことです。発言力のある人たちの意見で、市場はモネンシンが嫌われる傾向にあります。そのような状況では、理論ではなく、市場性の波に乗る方が有利だと考えています。

(2017年5月2日訂正を加えました)

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