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戸田克樹のコラム
第111話「アンチバイオテック!①」

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2016年11月15日

牛の治療をしていていつも思うのは、「薬がなければ獣医師って何にもできないよな~」ってことです。診断がついても、病気を治してくれるのは薬です(もちろん飼養管理の改善など、薬を用いない治療アプローチもありますが)。

そんなありがたいお薬さんですが、体の中でどのようにはたらいてくれるのでしょうか。
まずは、一番身近な「抗生剤」から調べてみることにしましょう。

疑問①:細菌は倒してくれるけど、投薬された牛さんは大丈夫なの??
治療薬を投与された牛さんが体調をくずしてしまってはいけません。抗生剤は「細菌」をどんどん倒してくれますが、なぜ牛さんの細胞に影響はないのでしょうか。
牛さんの細胞と細菌の違いを考えると、その理由も自然と見えてきます。


細胞の構造

牛さんの体は私たち人間を含む他の哺乳類と同じ細胞でできています(図―左)。細胞は細胞膜というタンパク質で構成された軟らかい膜で包まれています。遺伝情報が書き込まれた染色体(DNAの集まり)も核膜という膜で囲まれていて、細胞の中にはその生命活動を担ったり、形状を保つためのいろんなものが含まれています。

それでは細菌はどうでしょうか。


細菌の構造

なんだか四角いですね(図―右)。牛さんたちと同じように細胞膜で囲まれていますが、さらにその外側を細胞壁が取り囲んでいます。それから細胞の中が驚くほど単純です。基本的には遺伝情報をもつ染色体とタンパク質をつくる工場である「リボソーム」だけ。しかもそのリボソームも、構造が牛さんのそれとは異なっています。

それから、「葉酸」って聞いたことありますか?
DNAの合成や細胞分裂をするのに必要なビタミンB9です。牛さんたちは食べ物から摂取しますが、細菌はそれを自分の体の中で作りだすことができるという点も大きな違いですね。

こうした違いこそが、抗生剤の効果が細菌だけに作用する理由なのです。
細菌だけにあるものをターゲットにして、そこをバシっ!!と叩けば、「細菌は倒すけど、牛さんの細胞は大丈夫」という理想的な状態を作り出すことができちゃうわけです。

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