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松本大策のコラム
お薬のお話し その5 「痛み」とか「発熱」とか「炎症」とか

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2016年7月11日

「痛み」とか「発熱」とか「炎症」とか・・・

 これまで抗生物質のお話しをしてきましたが、今回は、バイ菌を殺すお薬ではなく、痛みや熱、炎症を抑えるお薬のお話しをしようと思います。

 みなさんご存じの牛さん用の薬剤以外にも、人間のお薬では消炎酵素剤など「消炎剤」にもいろいろ種類があるのですが、牛さんでは種類や数に限りがあります。
 まず、一般的に発熱や鎮痛剤として使われる「スルピリン」。以前は出荷規制がなかったのですが、現在は、10日間の出荷規制がついています。このお薬は、痛み止めや熱冷ましにはいいのですが、炎症を抑える働きはほとんど期待できません。それから、静脈注射をすると急速に低血圧になる場合があるので、牛さんの反応を見ながら慎重に注射していきます。

 次に「キモトリプシン」という、牛さん唯一の消炎酵素剤ですが、僕は全身投与ではそこまで手応えを感じたことがありません。ただし、腫脹した部分などに局所注射すると炎症が改善します。ただし、このお薬は、もともと炎症の時に作られる「炎症タンパク」の分解酵素ですから、直接には解熱や鎮痛といった作用はありません。

 それからよく使われるのがデキサメサゾンなどの「ステロイド剤」です。よく副作用が問題視されるステロイド剤ですが、強力な消炎作用がある反面、「免疫」まで低下させてしまうので、バイ菌が暴れ出さないように必ず抗生物質と併用しなければなりません。出荷規制が4日ですので、出荷規制の短い抗生物質でしたら併用しても何ら不利ではないわけです。ステロイド剤は、炎症を強力に抑える作用の他に、強力な解熱や鎮痛作用もあります。それと大切なことですが、以前は「ステロイド剤には消化管潰瘍を起こす副作用」があると言われ続けてきましたが、最近の検証では、かえって非ステロイド系の鎮痛消炎剤(NSAIDといいます)の方が消化管潰瘍や糜爛を起こす化膿性が高いことが解ってきました。

 NSAIDというのは、ステロイド系でなく選択的に鎮痛や解熱をする「解熱鎮痛剤」です。みなさんがご存じな薬剤でいうとフォーベットやメタカムです。ただ僕自身の経験では、肺炎などの時の「消炎作用」はほとんど期待できないと思っています(これには異論がある方がいると思いますが..。)それに消化管潰瘍などのトラブルが多いので使用は獣医さんに任せるべき薬剤だと思っています。
 理論的に言うとCOX選択性(簡単に言うと鎮痛や消炎に関する作用部位の選択性)が強いので、副作用はステロイド剤より少ないはずなのですが、現場での使用感では、はるかにNSAIDの方が事故が多く、またこれも経験のお話しで申し訳ないのですが、一番副作用に弱いのが「種雄牛」で、次が「雌牛」、それから「去勢牛」です。性ホルモンと何か関連があるのかもしれませんね。

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