(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
桐野有美のコラム
「お産の話−34 「胎盤剥離」」

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2008年5月28日

 「破水のふくろが妙な色をしている!」という電話。農家さんちに急行します。
ちょうど第二破水の直前で、写真のように、産道から白い羊膜が顔を出しています。農家さんの話では、この羊膜が出てくる前に、母牛の外陰部に鮮血がついていたとのこと。よく見ると羊膜の表面になにやら赤い塊がくっついています。実はこの塊、胎盤なのです。仔牛が外界に出てくるまでは、母体側とつながっていなくてはならない胎盤。牛の胎盤は、手のひら半分くらいのサイズのものが子宮の内側にたくさんくっついているのですが、この牛の場合は、そのうちのいくつかが剥がれてしまっているようです。
 そして、さらに注目すべきは、羊膜の中。正常な羊水の色はほぼ透明なのですが、この時の羊水はオレンジ色をしていました。この色は胎仔がもがき苦しんでいるサインです!何らかのトラブルで胎仔が苦痛を感じて、子宮の中で排便して、その便が羊水に溶けてこのような色になっているのです。
 これは急いで出してやらないと仔牛の体力がもちません。さっそく助産の準備をし、牽引して出てきた仔牛はグンニャリしていました。でもありがたいことにどうにか蘇生してくれました。体じゅうにオレンジ色の粘性のある便が付着しており、よっぽど苦しかったのだろうと思います。農家さんが「なにかが異常だ!」と感じたのが幸いでした。
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