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蓮沼浩のコラム
第375話:難産

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2014年4月24日

 今まで獣医師として本当に多くの分娩に立ち会ってきました。いつになってもやはり分娩介助は緊張するものです。予定日はどれくらい過ぎているのか?はたまた予定日前なのか?母牛は何産目か?子牛の種は何か?破水は終わっているか?胎盤剥離などおきてはいないか?異常出血などないか?などなど農家さんから聞き取り、母牛の状態を確認します。そして準備した後におもむろに産道に手を入れます。子牛のバイタルサインは正常か?子牛の胎位はどのような感じか?産道の開き具合は大丈夫か?胎児は経腟分娩できる大きさか?経腟分娩するにしても、滑車などの道具が必要か?分娩中に母牛が座り込む危険性はないか?などなど様々なことを考えて準備します。時には子宮内での胎児の胎位がおかしくて整復してから娩出することもあります。殿位や片手が折れ曲がって骨盤に引っかかっている場合や逆子で片足が母牛の頭側に伸びている場合など色々ありましたがほぼ100%整復してきました。帝王切開に踏み切る場合はほとんどの場合、胎児が大きすぎる場合や脂肪壊死症、母牛の起立不能や何かしらの疾病により経腟分娩が難しいと判断した時になります。しかし、長らく獣医師をしていてつい最近初めての胎位に遭遇しました。これはいわゆる「猿手」というやつです。初産の牛ですぐそこに手と頭が来ているのですが、どうも様子がおかしい。産道も狭い。頭があって、片方の手は正常なのですが、もう一方の手が上を向いているのです。一瞬双子かと思いました。しかし、奥まで手を入れて確認してみてもどうも双子じゃない。頭もあるし、両手もしっかりとある。なんじゃろうと思いながら、すぐに頭と二本の手にロープをかけて引いてみようと思いましたが、無理に引いたら子牛が死亡すると判断し、帝王切開に変更。立位での手術は不可能と判断し、寝かせての手術。そして子牛を娩出してみてびっくり。何と片手が後頭部を通って反対側に来ていたのです。お猿のポーズみたいな感じです。過去にベテランの先生から「猿手」ということを聞いたことがあります。頭位下胎向の子牛を整復する時にこのようになるとも聞いたことがありますが、今回は最初からこの胎位であったので何かしらの影響でこのような胎位となったのでしょう。すぐに手術に踏み切ったので母子ともに無事であったのでひとまず安心。初産牛なので何とか無事に次回種付けもうまくいってもらいたいです。それにしても、この仕事はいつも勉強する事ばかりです。

 ◎写真は後日アップします

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