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松本大策のコラム
治せない牛さんに思う

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2013年12月16日

 診療をしているときでも、コンサルや相談をお受けしているときでも、病態が全くつかめず、どんどん弱っていく牛さんがいます。これまでの経験や、いろいろな症例集をあたって、他の獣医師の意見を求め、時には大学に相談したりしますが、それでも解らずどんどん弱って結局助けられない牛さんもいるのです。
 このような症例の場合、検死解剖して原因がわかる場合ももちろんありますが、なかには、いったいどこが悪くてどうして弱ってしまったのかも解らない症例もあります。

 こういうとき、自分の無力さを思い知ると同時に、「命」というものがいかに微妙なバランスの上に保たれているかを考えさせられます。僕たち哺乳動物は、呼吸によって酸素を取り入れますが、それがほんの数分遮られただけで死んでしまいますし、ほんの小さな血管が詰まっただけで、身体の半分が動かなくなることもあります。

 普段は、そういう「イヤな」可能性をあえて意識の外に追い出して生活していますが、生き物を相手にして病と向き合う仕事をしていると、ふと自分の「イヤな」可能性を考えて不安になったり、逆にそういう微妙なバランスを見事にとって生きている生き物という存在のすばらしさに感動を覚えたりします。体調を崩したときもそういう想いを抱くことがあるでしょう。

 人間ひとり一人も、一生懸命そういうバランスを取って生きている尊い存在なのですから、みなさんも大切なご自分の身体は十分にいたわってあげましょう。もちろん、みなさんの大切な牛さんもです。

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