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伏見康生のコラム
NO.254:牛の病気―頭部―(12)

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2013年10月16日

12、眼瞼浮腫

原因と病態
体内に取り込まれた化学物質に対するアレルギー反応により真皮深層や皮下組織などで毛細血管の拡張と透過性の亢進が起こり、眼瞼が腫れ上がる(クインケ浮腫)
原因物質としては、抗生物質などの注射薬(主にペニシリン)、飼料中のカビ毒や残留農薬等が疑われる

症状
基本的に両側性に眼瞼が腫脹し、片側である場合は外傷等を疑う
眼瞼の変化は目立つため発見されやすいが、浮腫は全身性に起こっているため、腸管の浮腫により直腸から混血粘液を排泄することもある
頚部、肛門周囲の皮膚の柔らかい部位では眼瞼同様に浮腫が観察されやすい
眼瞼浮腫以外の症状が容易に観察される症例では低血圧、喉頭浮腫、気道閉塞、等を併発する(している)可能性があるので迅速な対処を要する
ペニシリンが原因である場合ごくまれにアナフィラキシーを起こすことがあり、急激な血圧低下、呼吸困難を呈し、適切な処置がなされない場合には死に至ることがある

NO.254:牛の病気―頭部―(12)
眼瞼浮腫

NO.254:牛の病気―頭部―(12)
眼瞼浮腫

NO.254:牛の病気―頭部―(12)
陰部の浮腫

農家さんができる処置
眼瞼浮腫のある個体を発見した場合は獣医師の診療を依頼する
特に上述のように眼瞼浮腫以外の症状が容易に観察される場合には速やかに求診する
原因と思われる飼料や注射薬がある場合には、給餌、治療投与をやめる
ペニシリンショックを発症した個体は確実に記録しておき、生涯ペニシリン系の抗生物質(ペニシリン、アンピシリン等)を投与しないように十分注意する

獣医師の治療
眼瞼浮腫のみであれば、抗生物質と抗ヒスタミン剤、あるいはステロイドを全身投与することで数時間以内に軽快する
ペニシリン系抗生物質等を用いた治療直後、突然の沈鬱、ふらつき、横臥、努力性呼吸、耳介下垂、頭部下垂等の異常が見られた際にはアナフィラキシーと判断し、迅速に当該薬剤の使用をやめ、0.1%アドレナリン注射液を1ml静脈注射する
その後、ステロイドを全身投与し、必要に応じクレンブテロール、オルシブレナリン等の気管支拡張薬を投与する
血圧低下により、血管の確保が困難になる場合があるため、薬剤の継続投与が出来るよう静脈ラインを確保しておくことが望ましい
当該牛の継続治療を必要とする時、セフェム系抗生物質はごくまれであるがペニシリン系抗生物質と交叉反応を起こすこがあるので、積極使用は避ける

予後
完治後以後の飼養に問題はない
アナフィラキシー発症牛では死に至ることも多い

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