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池田哲平のコラム
休題 ―去勢あれこれ(1)―

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2013年5月24日

 去勢は、オス牛にとって避けては通れない道です。現代型畜産においては、肉質向上や飼養管理の簡便さを目的として、肉用牛となるオス牛はほぼ100%去勢されます。

 去勢にやり方には、大きく分けて“観血去勢”と“非観血去勢”の2種類があり、どの去勢法を選ぶかは、畜主の好みや地域によって様々です。ここでは、それぞれのやり方のポイントや、メリット・デメリットを考えていきたいと思います。

①観血去勢
休題 ―去勢あれこれ(1)―

 「血を観る」ということから分かる通り、出血を伴う=外科的に切るという去勢法になります。メスやカミソリなどで陰嚢を切って、精巣を直接取り除く方法です。
 一番のポイントは、何と言っても“止血が出来ているか”という点です。生きている臓器には、当然、血管から血液が供給されています。観血去勢ではその生きている臓器(精巣)を取り除く訳ですから、止血を正確に行えるかどうかが最も重要になります。精巣に血液を供給しているのは精巣動脈で、精管や精巣静脈と一緒に、精索を形成しています。観血去勢ではこの精索の部分を、糸で結んだり何回も捻ったりする事によって、動脈からの血流を遮断します。こうする事で、止血が行えるわけです(一番最初に切る陰嚢に関しては、血液供給も少なく出血はほとんどありませんし、出血したとしても特に止血を行わなくても数分で自然と血は止まります)。私は精索を糸で結紮する時、糸が切れない範囲でフルパワーに近い力で結ぶように意識しています。同じ指の同じ場所に力を入れて結んでいると、2~3頭も去勢をすれば糸で指が切れてしまう時がある程です。ですが、それほど止血には気を使って行っているという事です。
 観血去勢のメリットとしては、確実に目で見て精巣を直接取り除くので、精巣が残っているという事がまず起こらないという事です。あとは、手技を確実に行えるようになれば、非観血去勢に比べて処置後の個体へのダメージが非常に少なく、餌食いもほとんど落ちないという事でしょうか。
 逆に、観血去勢のデメリットとしては、感染症のリスクがあるということが挙げられます。切開をして臓器を露出させるので、衛生的な環境で、消毒をしっかりした道具を使い、衛生的な手技で行う、という3点を意識して行わなければ、切開創から感染をおこしたり、場合によっては、去勢を行っているその道具や糸や手から菌感染がおこったりする可能性があります。

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