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松本大策のコラム
目的と手段

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2013年5月20日

 よく「目的のためには手段を選ばない」という話を聞きます。あまりいい意味では使われないのですが、目的達成のためには「自分のこだわりを捨てて、さまざまな手段を考える」ということは、大変重要だと思っています。
 しかし、現場を見て回ると「手段を選ばない」どころか、「目的すら選んでないんじゃない?」と思えることが多いのです。
 これは農場だけの問題ではないかもしれませんね。僕の場合も、世代が世代だけに「人の役に立つ」とか「いい人になれ」とかを耳にたこができるくらいたたき込まれてきました。ですから、何か問題があるとすぐに「その人の役に立とう」と思うまでは良いのですが、全く自分の専門外のことに首を突っ込んで、結局は役に立たないだけでなく、周りまで巻き込んで迷惑をかける、などということがあるのです。そのあげくに、自分の本業である「大動物の飼養管理指導」がおろそかになってしまっては、本当に本末転倒ですよね。

 現場のお話しをすると、たとえば肥育の農場での目的は(人によっていろいろとあるかもしれませんが)、究極は「肥育という仕事で利益を出す」ということだと思います。
 良い肉質を出すとか、共進会で成績を出すとかは、本来は大きな目的のための手段であるはずです。しかし、いつの間にかそちらが「目的」になってしまって、経営上はロスになっている、という農場などはわかりやすい例だと思います。

 他にも、親子や親族でいくつかの農場(あるいは部門)を分けて、たとえば親父さんは一産取り肥育と自家産子牛の肥育を、息子さんは繁殖と育成を、それぞれ担当している場合なども、親子で力を合わせて「どれだけ利益が出るか」を逆算していく必要があります。ところが、親父さんが「一産取り肥育でどれだけ成績を出すか」にこだわって、息子さんの繁殖牛に分娩前のビタミンを投与させないとか、産前の増し飼いをさせない、とか言いだすと、生まれてくる子牛が虚弱だったり、事故率が高くなったりします。結果的に農場全体の経営は悪くなりますし、自家産子牛の肥育成績も下がることが多いので、さらに経営は悪化します。

 「牛飼い」というのは、収益が上がるまでの時間が長い(資金回転率が悪い)仕事ですから、農場のみなさんで、常に「目標は何か?」を考えていないと、気づいたときにはもう間に合わない、なんてこともあります。

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