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松本大策のコラム
(番外編)多頭化、大規模化の罠

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2012年10月22日

 繁殖多頭化のヒントなどとサブタイトルをつけた本を出版しておきながら、今日のタイトルは何だ?と言われそうですが、多党化や大規模化にはプラスの側面だけでなく、マイナスの側面もあることを知っておかなければ、健全な経営判断はできないと思い、昨今の畜産を取り巻く状況を踏まえて、あえて今日のタイトルとしました。

 産業が発展する時期には、大きな投資で大規模化を図り、シェアをとった方が有利です。しかし、畜産がそのまま当てはまるかというと、そこは慎重に考えなければなりません。コンピュータのソフトウェアや生命保険などの商品は、1個作るのも100個作るのも、それにかかるコストはほとんど変わりません。開発費は同じで、後はコピーして増やすだけですからね。ということは、シェアを確保してたくさん売り上げを上げるほど経営は良くなるわけです。
 でも、繁殖にしても肥育にしても、1頭の「商品」を作るのにかかるコストは、基本的に「素牛代」「飼料コスト」などが大半を占め、固定費と言われる人件費や畜舎の償還などは、生産原価のうち小さな割合しか占めません。ということは、100頭作ると、100頭分コストは増えるわけです。
 景気が良く、また消費活動が盛んで「作れば売れる」という時代なら(言い換えると、1頭あたり儲けが10,000円でもあれば、たくさん育てた方が総利益は増えるのですが、万が一、1頭あたり10,000円でも損失が出ているようであれば、たくさん生産するほど損害が大きくなることになります。それだけなら良いのですが、飼育頭数が増えると事故率が増える危険も増します。

 日を取り巻く状況は、景気後退や人口減少、高齢化、などの縮小経済モデルといえます。多頭化して海外に活路を求めるというやり方もあるでしょうし、自分なりの適性頭数にして、販売方法の改革などで利益率を上げる、などいろいろなやり方があると思いますが、畜産を取り巻く状況の変化には絶えず気を配っていないといけないと思います。

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