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松本大策のコラム
「子牛を丈夫に育てる その9〜生理的貧血のお話し(2)〜」

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2009年12月7日

 前回は、生まれたばかりの子牛で「生理的貧血」が起こり、発育の遅延が起こったり(これを初期発育低下とよびます。初期発育の低下は子牛の発育全域に与える影響も大きいのです)、抵抗力の低下で白痢や肺炎などが起こりやすくなる、というお話しをしましたね。今回は、この生理的貧血の予防のお話しです。
 「生理的貧血の予防」というとむずかしそうですが、この貧血の正体は、鉄欠乏性貧血、つまり鉄分が足りなくて起こる貧血ですから、予防策は「鉄分の補給」という単純なものです。ただし、いくつか注意すべき事があります。
 まず、出来るだけ経口投与は避けたい、ということです。というのも、牛舎は無菌室ではないので、いろんなバイ菌がいます。これらのバイ菌の中には、「鉄利用菌群」というものがいるのです。たとえば毒素元性大腸菌という菌は、腸内の鉄分が多くなると、活発に増えて下痢などの悪さをはじめるのです。母乳中の鉄分が低いのも、もしかしたらこのようなばい菌の活動を抑えるためかも知れません。
 経口投与じゃないとしたら、注射しかありませんよね。シェパードでは、鉄剤の注射(ボマフェロンとかネオトシフェロンなど)を使います。注射の量はボマフェロン200のように、20%の鉄剤なら5ml、ネオトシフェロン100のような10%の鉄剤なら10ml使います。それから、鉄剤には「酸化作用」といってからだを錆びさせる(酸化障害を起こす)働きがあって、口の周りの毛が禿げてきたり病気への抵抗力が低下したりしますから、この酸化障害を防ぐために、酸化防止剤のビタミンEを一緒に使います。現在日本で承認されているビタミンE剤はゼノアックのビタミンE注だけです。これを鉄剤に2ml混ぜて打ちます。せっかく混ぜるのだから、というわけで僕はビタミンADE剤も1ml混ぜて、生後3日目に注射します。

 ひとつだけ大切な注意があります。それは「OTCやCTCなどのテトラサイクリン系抗生物質と同じ日に使わない」ということです。メカニズムは解っていませんが死ぬ危険があるそうです。同様にアイボメックのようなイベルメクチン製剤も、同じ日には使わないようにしましょう。

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