(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第890話:もしかしたら牛肉不足の入口に立っているのかもしれない?(その3)

コラム一覧に戻る

2026年9月8日

***********************************************************
シェパードイチオシ情報
■ 尿でわかる!マイコトキシン検査はじめました
尿中カビ毒検査とは(チラシ) / ご依頼の手順など
***********************************************************

前回は、世界有数の牛肉生産国であるアメリカでも牛が減少し、牛肉価格の上昇が問題になっているというお話をしました。では、日本はどうでしょう。国内の牛肉生産が減れば、輸入牛肉を増やせばよい。ところが、今回の数字を見ると、その輸入牛肉も減少しています。
農畜産業振興機構さまが令和8年8月21日に公表した最新の予測による牛肉輸入量をみてみますと・・・

7月 4万3,300トン 前年同月比92.3%
8月 3万9,800トン 前年同月比92.1%
9月 3万7,300トン 前年同月比97.3%

と予測されています。
7~9月平均では4万100トン、前年同期比93.7%です。つまり、国内の牛肉生産が減少し始めている時期に、それを補うはずの輸入牛肉まで前年より約6%少なくなる予測なのです。
さらに品目別に見ると・・・

冷蔵品 1万5,000トン 前年同期比99.8%
冷凍品 2万5,100トン 前年同期比90.5%

となっています。冷蔵品はほぼ前年並みですが、冷凍牛肉は約1割減っています。海外の牛肉価格、為替、海上輸送費などさまざまな理由があります。そして前回見たように、アメリカ自身も牛不足です。「日本で牛肉が足りないから、外国から買ってくればよい」というほど簡単な世界ではなくなってきているのかもしれません。

そして、もう一つ非常に気になる数字があります。「牛肉在庫」です。牛肉需給を考えるとき、国内生産量と輸入量だけを見てはいけません。倉庫には、それまでに生産・輸入された牛肉が在庫として保管されています。需要が一時的に増えたり、輸入量が減ったりしても、この在庫を取り崩すことで市場への供給を維持できます。いわば牛肉市場の「貯金」です。その貯金が減っています。

農畜産業振興機構さまの予測では、牛肉の期末在庫は、
6月 14万400 トン 前年同月比95.2%
7月 13万7,500トン 前年同月比90.4%
8月 13万3,100トン 前年同月比87.0%

8月は前年より13%少ない水準です。過去5年間の同月平均と比較しても、8月は13.2%少なくなると予測されています。国内生産減少、輸入量減少、在庫減少という三つの数字が、同じ方向を向き始めています。ただし、ここで見ておかなければならない数字もあります。7月の牛肉出回り量は前年同月比99.9%、8月は102.0%と予測されています。つまり現在、「スーパーから牛肉がなくなっている」わけではありません。市場には、ほぼ前年並みの牛肉が供給されています。ではなぜ、国内生産と輸入が弱いのに出回り量を維持できるのでしょう?

一つの答えが在庫です。ダムに例えると分かりやすいかもしれません。川からダムに入ってくる水が減る。しかしダムにはまだ水が貯まっています。そこで貯水していた水を使えば、下流にはこれまでと同じ量の水を流すことができます。下流にいる人から見れば、「水は普通に流れているじゃないか」となります。しかし・・・ダムの水位は少しずつ下がっています。

牛肉も同じです。国内生産という流入量が減る。輸入というもう一つの流入量も減る。それでも市場への出回り量を維持すれば、その差は在庫から補われます。つまり現在の13万トン台という在庫量そのものより、「在庫がどちらの方向へ動いているのか」を見ることが大切なのだと思います。(まさに今、世界中で大問題となっている原油の備蓄の問題と同じです。とにかく中東情勢から目が離せません!!)

問題は、この状態が何年も続いた場合です。前々回見たように、日本では繁殖母牛と出生頭数が減っています。前回見たアメリカでも牛群は歴史的な低水準です。そして日本では、輸入牛肉が減り、在庫も減っています。

これまで日本は、「国内で足りなければ外国から買えばよい」という考え方で食料を確保することができました。しかし世界中で食料生産コストが上がり、牛そのものが減少し、各国が自国の食料確保を優先するようになれば、その前提がいつまでも続く保証はありません。
「この牛肉は誰が、どこで、どのように作り、これからも同じように供給できるのだろうか」と考えることも非常に大事なことだと思います。
国内生産が減り始めた。世界最大級の牛肉生産国でも牛が減っている。輸入も減っている。そして最後のクッションである在庫も減っている。まだ牛肉不足とは言えません。しかし、「牛肉が余ることを心配する時代」から、「牛肉をどう確保するかを考える時代」へ変わり始めている可能性はないでしょうか。もしかすると小生たちは今、その境目に立っているのかもしれませんね。

***********************************************************
今週の動画
長靴の底を洗いたい~ホースの力を最大限に~

|