(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第889話:もしかしたら牛肉不足の入口に立っているのかもしれない?(その2)

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2026年8月25日

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前回は、日本国内の牛肉生産について考えてみました。特に気になったのが和牛です。6~8月平均の和牛出荷頭数は前年同期比93.1%。7月だけを見ると89.2%と、前年より約11%も少なくなる予測でした。さらに長期的に見ると、黒毛和種の出生頭数そのものが、すでに減少へ転じています。つまり、「将来、牛が減るかもしれない」という話ではありません。過去の出生頭数減少が、いよいよ実際の出荷頭数として現れ始めているのではないか。前回は、そんなお話をしました。

では、日本で牛肉が足りなくなったらどうすればよいのでしょう?「国内生産が減っても、アメリカやオーストラリアなどから輸入を増やせばよい」。確かにそう考えることもできます。日本はもともと、牛肉のかなりの部分を海外から輸入しています。日本国内で消費される牛肉の約6割は海外からの輸入に頼っており、国産牛肉は大体4割です。輸入の方が多いのです。

だったら、国内で足りない分は頑張って海外から買えばよいではないか。ところが、そんな単純な話ではありません。現在、そのアメリカで異変が起きています。2026年1月1日時点のアメリカの牛・子牛総頭数は8,620万頭。2019年には約9,470万頭いましたから、7年ほどで800万頭以上も減少したことになります。肉用繁殖雌牛も2,760万頭で、前年より1%減少。2025年に生まれた子牛も3,290万頭で、前年比2%減でした。フィードロットで肥育されている牛も前年比3%減少しています。ちなみに日本の肉用牛の総頭数は約260万頭です。

実は現在、アメリカの牛群は歴史的な低水準にあります。つまりアメリカでも、何とも見覚えのある現象が起きているのです。原因の一つは、長期間続いた干ばつです。牧草が不足し、飼料費などの生産コストも上昇し、農家さんは牛を減らさざるを得ませんでした。特に問題なのは、繁殖雌牛です。牛肉が高くなったからといって、一度減らした母牛を翌月から元に戻すことはできません。母牛を残し、種付けし、妊娠させ、子牛を産ませ、その子牛を育て、肥育して、ようやく牛肉になります。これは日本でもアメリカでも同じです。そしてUSDA(米国農務省)も、2026年後半から2027年前半にかけて、フィードロットへ入ってくる子牛の供給がさらに厳しくなるとみています。

つまり、世界有数の牛肉生産国であるアメリカ自身が、牛肉供給の問題を抱えているのです。
ところが、ここで非常に興味深い出来事が起こりました。実はこれが、小生が今回のコラムを書くきっかけになりました。2026年8月21日、トランプ大統領は牛肉価格を引き下げるため、90日間で最大30万トンの挽肉用牛肉を低い関税で追加輸入できるようにする方針を発表しました。アメリカ国内で牛肉が足りない。牛肉価格が高い。そこで外国から安い牛肉を入れて価格を下げよう、というわけです。あれだけ海外に対して強烈な関税をかけると脅す外交を展開していた国が、です。

は? アメリカが牛肉関税を下げて、牛肉の輸入促進?どうなってんの??
おそらく、アメリカ国内は相当インフレが進んで大変なことになっているんだろうなあ・・・。

ただ、これ、どこかで聞いたような話ですよね。「国内で足りなければ輸入すればよい」です。ところが、この政策にアメリカの牛生産者から強い反発が起きています。理由は非常に分かりやすい。アメリカの農家さんから見れば、ようやく牛の価格が上がり、長年の干ばつや高い生産コストを乗り越えて、これから母牛を残して牛群を再建しようという時なのです。当然、その間は牛肉供給量がさらに減ります。短期的には牛肉価格が高くなる。しかし、それをある程度我慢して母牛を増やさなければ、将来の牛肉は増えません。

ところが、消費者の牛肉価格が高いからと外国産牛肉を大量に入れて価格を下げれば、農家さんが牛を増やそうとする経済的な動機を弱めてしまう可能性があります。実際、アメリカの主要な牛生産者団体は今回の政策について、国内の牛群再建を妨げる可能性があるとして反発しています。ここには、非常に難しい問題があります。

政府としては、「国民の食費を下げたい」。農家さんとしては、「今まで苦しかったのだから、価格が上がった今こそ経営を立て直したい」。どちらの言い分も分かります。

しかし、短期的な消費者価格を抑えることを優先して輸入牛肉を増やせば、国内生産基盤の回復を遅らせる可能性があります。そして国内生産基盤がさらに弱くなれば、将来もっと輸入に頼らなければならなくなる。これは日本にとっても、決して他人事ではありません。
今回のアメリカの出来事を見ていて、「牛肉が高くなれば、農家さんが儲かって牛が増え、いずれ価格が下がる」という教科書通りの市場メカニズムが、現在の畜産では簡単には働かなくなっているのではないかと思います。牛を増やすには時間がかかります。飼料も高い。燃料も高い。人件費も高い。金利も高い。そして何年もかけてようやく牛を増やそうとしたところで、牛肉価格が上がれば、今度は政府が消費者対策として安い輸入牛肉を入れるかもしれない。農家さんからすれば、「怖くて牛なんか増やせないよ」となっても不思議ではありません。

そして、ここから日本の話に戻ります。日本では国内の牛肉生産が減少しつつあります。
それなら輸入を増やせばよい。ところが、その頼みの輸入牛肉を供給する側でも、牛が減っているのです。実際、日本の牛肉輸入量も減少しています。さらに、その不足を吸収してきた「牛肉在庫」まで減っています。国内生産が減る。輸入も減る。在庫も減る。現在、この三つが同時に進み始めています。では、日本には今、どのくらいの牛肉在庫があるのでしょうか。そして、この在庫がさらに減っていった場合、小生たちの食卓や牛肉価格には何が起きるのでしょうか。在庫の評価は非常に重要なポイントになります。次回は、日本の牛肉輸入量と在庫の数字を実際に見ながら、「牛肉不足は、本当に始まりつつあるのか?」を考えてみたいと思います。

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