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蓮沼浩のコラム
第849話:見えない敵との終わりなきない戦い

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2025年10月28日

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ここ数回にわたってお話ししてきた「カビ毒(マイコトキシン)」シリーズ。ZEN(ゼアラレノン)、DON(デオキシニバレノール)。それぞれが異なる顔をもちながらも、牛さんの体の中で確実に“悪さ”をしている存在です。今回はその総まとめとして、「どう向き合うべきか」を改めて整理してみたいと思います。

マイコトキシンとは、カビが自分の生存を守るために作り出す“化学兵器”のようなものです。カビ自身にとっては防御物質、しかし哺乳類にとっては毒。ゼアラレノン(ZEN)はエストロゲン様の構造をもち、ホルモンバランスを狂わせます。デオキシニバレノール(DON)は蛋白合成を阻害し、採食低下と免疫抑制を引き起こします。嘔吐の原因にもなります。まるで、ホルモン、代謝、臓器――それぞれの“急所”を狙うスナイパーのようです。カビはただ生きようとしているだけなのに、その結果がヒト様や家畜の健康を蝕む。

しかも、現実の現場では、ひとつのカビ毒が単独で存在していることは稀。ZEN+DON、DON+フモニシン、ZEN+アフラトキシンなどなど、カビ毒たちはなぜか“仲良し”。複数のカビ毒が同時に作用することで、毒性は何倍にも強まります。この“共犯関係”、意外と見落としがちです。「飼料中の数値は基準値以下だったのに、牛が調子を崩す」――そんな時は、静かに微笑む“共犯者”が潜んでいるのです。

カビ毒の怖さは、「目に見えない」という点にあります。牛さんは喋れません。「ちょっと体が重い」「食欲が出ない」とも言えません。もちろん、「カビの生えたエサはイヤです~」なんて言ってくれたら助かりますが、そうはいきません。血液検査や体重の増減だけでは原因を特定するのが難しい。だからこそ、“見えないストレス”を定量化する技術――それが「尿中マイコトキシン検査」の最大の意義なんです。尿中のZENやDONを測ることで、「体が実際に受けているダメージ」を可視化できます。犯人はいつも、しっかりと尿の中に証拠を残しているんですよね。

これまでの畜産現場では、カビ毒をなにか特別なイベントとして起こる「事故」や「汚染」として扱うことが多かったと思います。しかし、気候変動や流通の多様化によって、カビ毒は“常在リスク”となりつつあります。つまり、「カビ毒は普通にあるもの」「それをどう管理していくかが問われる時代」に変わってきているのです。

カビ毒管理は、“ゼロにする”発想ではなく、“コントロールする”発想が必要です。完全排除を目指すより、現場でリアルに対応していく。季節・飼料ロット・給与形態・牛のステージによって動的に変化します。これを見える化し、科学的に把握することが、今後の家畜衛生のカギになると思っています。
結局のところ、カビ毒との戦いに“終わり”はありません。けれど、その戦いを通じて、私たちは牛さんの体をより深く理解し、よりやさしくなれるのかもしれません。牛さんにはできる限り、カビなど生えていないちゃんとした餌を食べさせてあげたいですよね。科学と愛情の2つを両輪に、これからも“見えない敵”と向き合っていきましょう。
 
 
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今週の動画
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