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蓮沼浩のコラム
第848話:デオキシニバレノールってそもそも何じゃ?

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2025年10月21日

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今回紹介するのは、デオキシニバレノール(Deoxynivalenol:DON)です。ZEN(ゼアラレノン)と同じくフザリウム属のカビ(Fusarium spp.)が産生する代表的なマイコトキシン(かび毒)のひとつで、別名「ボミトキシン(vomitoxin)」とも呼ばれています。
“Vomit”とは英語で「嘔吐」。つまりそのまま「嘔吐毒」。なんとも直球な名前です。まあ、カビが生えたものを食べて吐くのは、ある意味当たり前なんですけどね(笑)。

このかび毒は略して「DON(ドン)」と呼ばれます。「あのサイレージからドンが出たぞ~~!」なんて現場ではよく聞きます。なんとなーく愛嬌のある感じがします。ちなみに「デオキシニバレノール」という正式名称、ちょっと舌を噛みそうで覚えにくい。中には「デオキシレバニノール」と言ってしまう方もおり、どこかレバニラ炒めを彷彿とさせる響きです。「デオキシレバニノール炒め」・・・残念ながら食べたら確実に吐きます(笑)。

DONは主にトウモロコシや小麦、大麦といった穀類に繁殖するフザリウム属の“赤カビ”が、収穫前後の湿った環境で元気いっぱいに繁殖したときに産生されます。
日本のように高温多湿な気候では、特に梅雨時期や雨の多い年に発生が増えます。飼料原料やサイレージの品質に影響を与える、まさに厄介な存在です。
フザリウム属カビは実はZENをつくるカビとほぼ同じ仲間で、ZENとDONが“仲良く”同時に検出されることがよくあります。いわば「兄弟毒」。尿検査をしても、ZENとDONがペアで陽性になることが多く、まさにセットで攻めてくるタイプです。やれやれですね。

DONが体内に入ると、タンパク質合成を阻害します。つまり、細胞が新しいタンパク質を作れなくなり、成長が止まり、免疫機能が落ちてしまう。特に腸の上皮細胞でこの作用が強く、消化吸収能力や免疫応答が低下します。
その結果、「食べているのに太らない」「元気がない」「なんとなく調子が悪い」――まさに“なんかパッとしない”牛が増えてくるわけです。
豚ではこの影響がもっとわかりやすく、嘔吐や下痢が頻発します。だからこそ「ボミトキシン(嘔吐毒)」と呼ばれているのです。一方で牛は我慢強く(?)、症状が目立ちにくいため、慢性的な悪影響として現れるのが特徴です。さらに恐ろしいのは、免疫抑制作用。感染症にかかりやすくなったり、ワクチン効果が落ちたりと、間接的なダメージもじわじわ効いてきます。

DONの本当の怖さは、「少量でも長期間摂取すると悪影響を及ぼす」という点です。急性毒というよりも“静かに蝕むタイプ”。毎日ちょっとずつ体に入ることで、腸が炎症を起こし、免疫バランスが崩れ、結果的に「元気がない」「病気が治りにくい」「繁殖が安定しない」など、地味に効いてくるのです。
このため、飼料中の上限値が厳しく設定されています。飼料の基準値は1ppm以下、生後3か月以上の子牛では4ppm以下が推奨値です。牛は反芻動物ゆえに多少耐性があるとはいえ、油断は禁物です。

尿中DON濃度を測定することで、摂取・吸収・代謝・排泄のすべてのプロセスを“見える化”できます。尿中からDONが出たということは、すでに体内で代謝が進んでいる証拠。見た目が元気でも、群全体の飼料効率や繁殖成績が落ちている可能性があります。
ZENと同様、尿検査による早期発見と早期対策が極めて重要です。

面白い報告として、DONを66ppm含む飼料を牛に5日間与えたところ、牛乳からごく微量の代謝産物が検出されたが、未代謝のDONそのものは検出されなかったというデータがあります。つまり、体内である程度は処理されるものの、完全に“無害化”されるわけではないのです。しかも現場では、この66ppm以上の汚染なんて、珍しくありません。やはり侮れませんね。

DONは“静かな毒”です。突然牛が倒れるような派手さはありませんが、気づかないうちに群全体のパフォーマンスを確実に落としていきます。ZENとともに、現代畜産における“見えないリスク”の代表格。
だからこそ、尿検査によるモニタリングを通じて、「数値で健康を見える化」することが、これからの畜産現場に求められる姿勢だといえるでしょう。

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