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蓮沼浩のコラム
第834話:稟告あれこれ その4

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2025年7月1日

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前回までは、往診を依頼する時にどのような情報を伝えていただけると助かるかというお話をしました。
今回はちょっと趣向を変えて、「対応に困る稟告」について紹介してみようと思います。

≪ どうしたらよいのかわからない事例 ≫

「先生~、子牛が下痢してますがよ~~~」  

以上!

まあ、子牛が下痢をしているということは伝わります。わかります。非常によくわかります。
ただ、子牛の下痢の状態も何もかもわかりません。ヤバそうな下痢なのか、全然問題ないレベルなのか。さっぱりわかりません。

しかし問題はここからです。

では、その情報を受けて、獣医さんはどう動けばいいのでしょうか。

・子牛が下痢をしているから診療に来てほしいのか。
・子牛が下痢をしているが、そこまでひどくないのでちょっとした意見を聞きたいのか。
・子牛が下痢をしているので、自分でどう対処すればいいか教えてほしいのか。

いろいろな取り方ができるわけです。

ですが、現場での経験からして一番多い、そしておそらく最も「正解」に近いパターンはこうです。

子牛が下痢をしているので、適当な時間に来て勝手に治しておいてくれ。あとは頼んだ。よろしく~~。

ハイ、獣医さんの心がふわっともやつきます。
この手の稟告をいただいた際、小生の頭の中では「お大事に~~」と言いながら電話をそっと切りたくなる衝動が全力疾走を始めます(笑)。

やっぱりね、最後に一言、方向性を明示していただけると助かります。
「先生、子牛が下痢してます。往診お願いします~~」と。

この「お願いします~」の一言があるだけで、獣医さんの心のギアがしっかり入るんですよ。
「は~~~い」と言って、診療車に飛び乗って向かうわけですよ。

≪ とにかくクソ長い説明 ≫

これはこれで、なかなかパンチの効いたパターンです。

「先生あのね、みてもらいたい子牛なんだけど下痢するのよ。生まれた時からなんか変で、お父さんは大丈夫っていうんだけど、私は変だと思っていたのよ。そしたらやっぱり下痢止まらないし、お父さんはどこ見てんのか・・・(延々とお父さんの話が続く)。だから、自分でお薬飲ませて様子見てたら便が少し固まってきてね、いいかと思ったんだけど、そしたらまた緩くなってきて、でも食欲はあるのよ、ただ昨日は少し元気がなかった気もするし・・・(さらに話は続く)」

ええと、つまり子牛が下痢をしてるから往診を依頼しているということですよね?

これはこれで情報量は豊富なのですが、長電話で腕がキツくなる頃には、本題がどこだったのか自分でもわからなくなります。

お父さんへの不満、これだけは何故かよくわかります。

≪ 頭数が爆増 ≫ 
 
これもですね、獣医さんが思わず「ウソやろ・・・」とつぶやいてしまう要注意パターンです。

例えば、こんな感じの稟告。

「先生、生後大体4カ月の和牛子牛が熱出してます。往診お願いします~~」

うんうん、シンプルで良いですね。
理想的稟告スタイルですね。文句なしです。
で、こちらも「了解~~~」と言って、いつもの感じで軽快に現場に向かうわけです。

しかし・・・
現場に着いた瞬間、目の前に広がる光景に一瞬フリーズ。

子牛が・・・ズラ~~~~ッと並んでる!

えっ!?!?
1頭じゃなかったの!?!?!?

「先生、今日は10頭お願いします。」

えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!
心の中で「聞いてないよぉぉぉぉぉぉ!!!」と絶叫。

顔は冷静を装ってても、頭の中はパニックです。
「うへ~~、この後の往診スケジュールどうしよう・・・あの農場に連絡してリスケしてもらって・・・電話かけて、謝って・・・」と、診療前に脳みそがフル稼働。

≪ ついでに地獄 ≫

さらに追い打ちをかけてくるのが、この魔法の言葉。
「先生、これもついでに診てよ。」

はい、出ました。

おそらく、全国の牛の臨床獣医師にアンケートを取ったら、「心がもやつくフレーズ ベスト3」に確実にランクインするであろう名台詞です(笑)。

小生の実体験をお話ししましょう。
1頭治療の予定で行った往診。
ところがどっこい、「ついでに、これも」と言われ続けて、いつの間にか治療頭数が8頭に爆増。

ようやく終わって診療車に乗り、「やれやれ」とエンジンをかけたその時!
奥さんが全力疾走で走ってくる。
「先生、こっちにも診てもらいたい牛がいる~~~~~!」

心、折れそうになりますよね。
「これ、何かの罰ゲームなんでしょうか?」と一瞬遠い目になりながら、また車を降りるのでした。

というわけで、往診依頼の際には「頭数の明示」もぜひお願いします。
その一言が、獣医さんのスケジュールと心の平穏を守ってくれます。
慣れているといっても心の準備って、実は大事なんですよ、ほんとに。

≪ 理想の稟告とは? ≫

ということで、理想的な稟告というのは、

「先生、〇〇が□頭△△してます。往診お願いします~~。」
あとは往診時間の調整だけ。

これだけで十分。シンプル・イズ・ベスト。

これで獣医さんは「診るモード」にギュンと入ります。
あとは現場でゆっくり状況を見ながら、足りない情報を確認していきます。
必要なら「お父さんはどんな様子でした?」と、こちらから聞きますので(笑)。

ちなみに「様子を見てたら良くなったんだけど、また悪くなってきた」と言われるケースもよくあります。
この「様子見」というのが、牛さんにとっての試練の時期だったりもします。
「あの時すぐ電話すればよかった~~」となることもあるので、迷った時は一報を!

というわけで今回は、獣医さんの心をふんわりもやつかせる「稟告あるある」をお届けしました~~~。
 
 
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今週の動画
牛の神経学的検査 〜固有受容感覚〜

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