(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
藤﨑ひな子のコラム
プロカルシトニン

コラム一覧に戻る

2024年11月1日

****************************************
2025年卒獣医師採用について
(有)シェパード鹿児島本所(鹿児島県阿久根市)、栃木支所(栃木県那須塩原市)ともに獣医師を募集しております。
詳細はこちらをご覧ください。
随時実習も受け入れております(5年生以上対象)。
****************************************
 
 日中は25℃を超えますが、もう出水市には鶴が来ています。鶴も暑さにやられるのでしょうか。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

 先日受けた抗菌薬セミナーにて、人医療において血液検査項目の一つである「プロカルシトニン」という物質を知りました。

 プロカルシトニン(Procalcitonin, PCT)とは、カルシウム代謝に重要なホルモンであるカルシトニンの前駆物質です。人において、PCTは正常では甲状腺のC細胞で産生されますが、重症の感染症では甲状腺外で産生され、血中に分泌されることが報告されています。これは、全身性細菌感染症のマーカーおよび重症度判定の指標として人医療で使われているようです。また、近年では抗菌薬投与の指標としても有用であるという報告もあります。

 プロカルシトニンという物質は、ウシでも診断などに使われているかを調べてみました。すると、ウシプロカルシトニンを測定できるELISAキットがありました。また、乳房炎や子牛の下痢、ウシ呼吸器疾患(BRD)とウシプロカルシトニンとの関連を調べた報告もありました。これらの論文では、人や他の動物種で報告されているように、敗血症全身性炎症反応症候群のウシでは血漿中のPCT値が上昇すること、下痢やBRDの予後としてPCT値が有用である、という内容が記載されていました。また、健康なウシと比較して潜在性乳房炎のウシの血漿中PCT値が有意に高値を示したことから、局所的な炎症についてもPCTは診断ツールとして有用である可能性が示されました。

参考文献
doi: 10.1016/j.tvjl.2018.02.003.
doi: 10.1016/j.vetimm.2024.110837.
doi: 10.3390/vetsci10120670.
doi: 10.1016/j.actatropica.2020.105336

 このように、PCTは敗血症などの全身性の炎症マーカーとしてだけでなく、局所の細菌感染のマーカーにも有用である可能性も秘めていることがわかりました。また、人医療ではPCTの値をもとに抗菌薬の投与期間を決めるためのガイドラインも策定されており、このガイドライン下では抗菌薬投与期間が短縮したという報告もあります。昨今、畜産分野における薬剤耐性菌の問題が指摘されており、抗菌薬の「適正使用」や「慎重使用」などが提唱されています。一方で、どのような症例には抗菌薬を使用しなくてよいのかor使用したほうがよいのか、いつまで抗菌薬を投与したらよいのか、といった明確な指標は現在のところありません。今回ご紹介したプロカルシトニンがこのような課題に対する打開策であることを願っています。
 
今週の動画
分娩前の尾根部チェック

|