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笹崎直哉のコラム
佐々畜産で研修して その6(最終回)

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2023年9月4日

乳用牛を対象とした繁殖検診がほとんどなかったためホルスタインの繁殖検診は私にとって貴重な経験で、熊本家畜診療所の深水先生には乳用牛の検診で押さえておきたいポイントを沢山ご教示いただきました。特に勉強になったのが乳牛の繁殖成績と疾病との関係性についてです。
検診前に「乳用牛の代表的な疾病として蹄病や乳房炎が挙げられ、蹄病に関しては趾皮膚炎といった感染性のものや、白帯病や蹄底潰瘍などの非感染性のものの2つが存在し、どちらも疼痛ストレスによる生産性低下が如実に現れる」と教わりました。ちなみに肉用牛は後者の非感染性の蹄病がほとんどですが、発生頻度は乳牛ほど高くありません。
確かに現場で妊娠鑑定をしてみると妊娠マイナス牛の中には跛行を呈す牛が散在していました(以下写真の赤点線が患肢になります)。

フレッシュチェックにおいても蹄を痛がる牛は子宮の回復が遅く、卵巣の動きが良くありませんでした。
以上のことから深水先生は削蹄や蹄病軟膏、下駄などを使った治療的アプローチとは別に微量元素の飼料添加といった予防的アプローチを積極的に提案するようにしているとのことでした。
確かに微量元素である亜鉛は皮膚や被毛、蹄を作るのに必要なケラチンの生成に必須であり、その他銅やマンガンも蹄をケアするにあたって重要なミネラルとされています。
他にも乳牛の栄養摂取面でどんなことを意識して農家さんにエサの指導をしているのかを細かく教わりましたが、やはり一番重要なのは十分な乾物摂取とのことでした。
検診中に1頭、長期不受胎牛に出会い既往歴を見るとホルモン剤や子宮洗浄など多岐に渡る治療が施されていました。そこで深水先生が「多血小板血漿(以下PRP)の子宮内投与をしてみよう」と提案してくださいました。PRPは人医療で創傷治療や関節炎に活用される他、不妊治療の一環で子宮内に投与する方法が知られています。一方、牛などの産業動物分野では関節周囲炎、深部蹄底潰瘍などの治療に活用されています。さらに長期不受胎牛の子宮内にPRPを投与し受胎性への効果が認められたという報告もあります。

さっそく輸血パックにて血液を採取し、処理を進めましたが、個人的に経験のなかったことでしたので、今後診察する繁殖障害牛へのひとつの武器として備えておこうと思いました。

では診療の話にうつります。農家さんを伺う中で個人的に気になったのは「ロボット哺乳」をしている農家さんが多いということでした。佐々先生からは「ロボット哺乳は上手に管理しないと中耳炎や呼吸器病を蔓延させてしまう」とのコメントを頂きました。聞くと今までロボット哺乳期間中の子牛の治療や管理、ワクチネーション指導に相当な時間を使われたそうです。私は昔「ハッチを並べて1頭1頭手やりで哺乳するよりも、群でロボット哺乳した方が手間も減るし、それほどスペースも取らないし良い」と考えていました。しかしその考えは甘かったのです。
群で哺乳するシーンだけをみれば良く思えますが、群の中で弱い個体(体格が小さい牛など)が発生すれば群から隔離して個室で管理しなければなりません。さらに徹底した敷料交換や消毒をする場合はオールイン・オールアウトが基本になるので、待機場所が必要になります。さらに乳首の衛生管理や誤嚥しないように乳頭口のサイズの確認、扇風機の配置等、杓子定規にいかないのが現状です。
今後子牛の生産に力を入れようと考えている農家さんで、ロボット哺乳の導入を検討される方は牛舎の構造や飼養頭数、ロボット哺乳を開始する日齢などをよくよく煮詰めた方が良いかもしれません。

さてさて、まだまだ紹介したいことが沢山あるのですが、ここまでとさせて頂きます。
ですが、ひとつだけお伝えしたいことがあります。熊本の牛肉ブランド「和王」はとても美味でした。研修初日の夜、佐々先生のお宅で頂きましたが、あまりにも美味しかったので、お肉もご飯もバクバク食べ進めてしまいました(ごめんなさい)。

佐々畜産のお肉は「和王」として皆様に届きますので、是非ご賞味ください。

佐々先生、深水先生、5日間本当にありがとうございました。天候の優れない梅雨の時期にお邪魔してしまい申し訳ありませんでしたが、学んだことはしっかりと今後の牛飼いや診療に活かしていきたいと思います。

(これまで笹崎のコラムをご覧いただき誠にありがとうございました。またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。一緒に幸せな牛飼いをしましょう!!)

 
 
 
 
今週の動画
【病気】おへそから何か出てきました

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