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伏見康生のコラム
NO.177:肥育牛の卒倒2

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2012年3月28日

fushimi_178

 以前肥育牛の突然の卒倒について書きましたが、今回は医原性の卒倒についてです。
 医原性という言葉が適切かわかりませんが、静脈からの薬剤投与時に起こる卒倒のことです。

 静脈注射を行っていると、突然その牛の目付きがおかしくなりフラつき始め、直後に崩れるように倒れることがあります。

 静脈注射による卒倒の種類は大きく二つに別れ、一つは一時的な心臓の機能不全、もう一つは特発性、すなわちよくわかっていないものです。

 一つ目の卒倒は注射薬による溶血が原因となります。注射液が血管に入ったとき、注射薬によっては赤血球を始めとする血球が壊れる溶血という状態を引き起こし、細胞内に閉じ込められていたカリウムが放出され心臓の機能が低下し、徐脈、不整脈といった症状として現れて卒倒につながります。といっても普段使用する薬品は基本的には大丈夫なものがほとんどで、特殊な例です。

 二つ目の卒倒はよくわかっていないと書きましたが・・・実は昨日も倒れました(倒しました)。非常に長~い経過で生体に必要とされる成分が不足する状態が続いていた場合・・・障害ももちろん出るのですが、生体はその不足状態への適応を見せ、足り無いなりにうまくバランスをとるようになります。そんな状態のときに突然その成分が投与されると・・・かえって予想もしなかった悪影響が出ることがあります。肥育牛では、ビタミンA、Caがその不足成分にあたり、詳しい機序はよくわかりませんが、現象としてこの2種類の成分の投与はどちらも肥育の進んだ牛を卒倒させることがあります。
 ビタミンAは本来静脈投与をする薬ではありませんが、ビタミンAを含んだ薬品を肥育牛に静脈注射すると、卒倒することがあります。昨日はそれにより肥育牛が倒れました。
 CaにはKのように急速投与によって不整脈、さらには心停止を起こす危険性がありますが、こちらもどう考えても安全な濃度を安全な速度で入れても、倒れることがあり、時に死んでしまう肥育牛も出ます。

 そんな経験がある牛あるいはおそれのある牛は、注射時にあまり頭を高く上げすぎず、柵の端ではなく真ん中に繋ぐように心がけています。
 またカルシウム剤に関しては、リスク回避のため原則静脈投与しないようにしています。

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