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池田哲平のコラム
「牛の解剖56: 第三胃(2) ~第三胃の病気~」

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2010年10月8日

 この様に、第三胃では食べたものから水分が吸収されます。水分吸収されてやや硬くなった消化物は第四胃へと送られ、胃酸などによる更なる消化を受けます。もしこの時、第四胃の内容物が多過ぎたり、何らかの原因で第三胃の運動機能が低下していたりすると、当然、第三胃に硬くなった消化物が溜まってしまいますよね。飲水量が低下したりするとなおさらです。こうなった時に起こる病気が「第三胃食滞」や「第三胃梗塞」と呼ばれるものです。
 あまり聞き慣れない病気ですか?その通りです!私もシェパードに入社して以来、この診断名で治療をしたウシはいません。ウシの病気として存在はしますが、メジャーな病気ではありません。
 何故かというと、一つにはその症状が穏やかであり分かりにくいというのがあります。軽症例ではちょっとした食欲の低下や排便量の減少がみられる程度です。重症例では第一胃にガスが張ったりしますが、こちらは逆にこのガスが目立つので「第一胃鼓脹」などとして治療することが多いのです(誤診と言えばそうなのですが…)。
 その他の理由としては、いま挙げた第一胃の鼓脹や食滞、第四胃の食滞・変位、迷走神経性消化不良と言った病気に継発(または併発)することが多く、単独での発症が少ないということが挙げられます。なので、他の病気として診断して治療していたら良くなった、という事もあるのです。
 この二つの病気は、いくつかの内科療法を行ったが良くならず、試験的開腹手術を行ったら見つかったというケースが多いです。第四胃への出口付近に腫瘍が出来ていたりロープなどを飲み込んで詰まっていたりすることで、第三胃から第四胃に消化物が送れなくなっていた、という症例もあるようです。X線撮影を行えば確定診断できることもあるのですが、実際の診療の現場で行うのは難しい場合が多いです。
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