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戸田克樹のコラム
第265話「菌と牛―その①―」

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2019年12月18日

獣医師にとっても農家さんにとっても生菌剤は身近な存在です。注射をご自身で投与されない農家さんでも、ミルクに混ぜたり、飼料に添加したり、水に溶かして飲ませたりと様々なやり方で牛さんに給与した経験が1度はあるのではないでしょうか。

例えば第一胃機能促進剤と記載されているトルラミンにはトルラ酵母が含まれています。酵母と聞くと発酵というワードがすぐに思い浮かびます。酵母菌はルーメンに入ってきた繊維成分をガツガツ食べて発酵し、アミノ酸など、第一胃内に住む細菌たちの栄養分となるものを作りだしてくれます。それによってルーメン細菌叢が活性化され、飼料の発酵状況が改善することで再び胃動が良くなってきます。

ビオスリーもよく使いますよね。こちらも生菌剤ですが、メインで入っているのは乳酸菌です。乳酸菌は文字通り発酵の過程で乳酸を作り出す細菌の総称です。乳酸、と聞くと「むむ!?アシドーシスにつながる悪者ではないか!」と思う方もいるかもしれません。しかし、発生した乳酸は正常なルーメン環境下では乳酸を利用できる細菌によって代謝され、その結果プロピオン酸が生み出されます。プロピオン酸は牛の増体、絨毛発達、さらに乳量を多くする特徴があるVFAのひとつです。

さらに、腸内でも乳酸菌はしっかりとはたらいてくれます。人間の世界でも腸内環境を整えるためにさまざまな乳酸菌が活躍していますよね。最近乳酸菌を扱った製品のCMを頻繁に見かけます。ヨーグルトはもちろん、サプリに乳酸菌入り飲料などなど…。乳酸菌が私たちに身近なものになってきたのには、もちろん理由があるのです。
   
つづく

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