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池田哲平のコラム
牛の解剖29:舌3 ~縦横無尽の筋線維~

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2010年2月20日

 舌が他の骨格筋と違うもう一つのポイントは、実は舌を食肉として食べるときにも大いに関わっています。焼肉屋で定番の部位の一つとして食べられている“タン”は独特の歯ごたえをしていますよね? あれは舌独特の筋線維の走り方によるものです。
 通常の筋肉、たとえばロース(胸最長筋)だと、筋線維は筋肉の長軸方向(つまり頭側から尾側)にだけ真っ直ぐに走ります。言い換えると、筋線維の向きは1方向だけです。しかし、固有舌筋ではなんと3方向に筋線維が走行しているのです!縦(舌の先端〜根元方向)・横(左右方向)、垂直(表裏方向)と縦横無尽に筋線維が入り乱れているのです。このような特徴を持つ筋肉は固有舌筋だけです。このおかげで舌はあれほど自由に動くことができ、また平べったい時もあれば細長い時もあるなど形を自由に変えることができるのです。
 タンが独特の歯ごたえをしているのは、1つの肉の中で別々の3方向に筋線維が走っているからなのです。肉というのは同じ部位でも筋線維の走行を変えるように切ってみると歯ごたえはもちろんのこと、不思議なことに味まで変わってしまうように感じます。気になる方はブロック肉を買ってみて、筋線維に沿って切ったお肉と垂直に切ったお肉を食べてみてください。
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