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松本大策のコラム
熱中症処置の意外な落とし穴

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2019年9月9日

シェパードでは獣医師を募集しています
 シェパードでは、関東地区の獣医療が不足している地域を支援するため、栃木県那須塩原市に支所を設けることにいたしました。2020年の4月に開設する予定です。経験、未経験は問いません。シェパードで研修後、現地勤務となります。募集内容は こちら から。

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 ようやく朝夕は少し涼しくなってきましたが、この時期でもやはり熱中症の発生は見られます。また、夏本番で熱中症になった牛さんは、この時期に再発しやすい傾向にあります。
 その他、全身の代謝不全や、第一胃の発酵異常によって「急性肺水腫」を起こし、口から泡を吹いて呼吸困難になるタイプが増えてくるのもこの時期です。急性肺水腫は、僕の経験では助けようがないので、急いで食肉処理場に搬入するしかないのですが、この病気は夕方に発生が多く、午後からの緊急搬入のない地域では助けようがありません。「資源を大切に」、とか「持続可能な生産」とかのスローガンが叫ばれているのですから、せめて夕方発生した緊急搬送くらいは対応していただければと切に願います。

 話が横道にそれましたが、熱中症(僕らは「熱射病」の方が呼び慣れているのですが)の牛さんを見つけたら、全身を冷やしながら血液が濃縮していたらリンゲルや生理食塩水の補液を行い、重曹注で血液のphを改善してあげる、というのがポピュラーな処置だと思います。あ、それにレバチオニンとかパンカル注、アリナミンなどを入れてあげて、全身の代謝も改善してあげますよね。

 ここで注意していただきたいのが、僕らも時々やりますが、直腸内に注水して体温を下げる方法。これは、牛さんの状態(特に目つきとか)を見ながら慎重に実施しなければなりません。というか、できれば、後頭部から徐々に水をかけて少しずつ全身に広げていって冷やす方法の方が安全です。
というのも、牛さんの体温を急に下げすぎると、ショック状態(別に痙攣とかするわけではありませんが)を起こして、血圧の下降、意識の混濁、起立不能などの状態を起こし、下手をすると死に至るケースもあるのです。

 もしも、このような状態に陥ったら、安息香酸ナトリウムカフェインやアドレナリンといった、あまり一般的ではない薬剤を用いなければ助けることが出来ないことも多いのです。これらの薬剤でショック状態からの脱出を図りつつ、頸動脈付近をペットボトルの湯たんぽで暖めるとか、高張糖液とビタミンB1、リンゲルや生理食塩水を補液してあげるなどで血流量や血圧を維持しなければなりませんが、いずれにしろとても難しい状態です。

熱中症で高熱の牛さんを見つけたら、「とにかく冷やしてあげたい!」というのが人情ですが、急激に冷やしすぎるのも危険だということは、心にとめておきましょう。

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