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伏見康生のコラム
「NO.143 「熱中症 その二」」

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2011年7月6日

 熱中症の牛が出たとき、前回書いたようにあれこれと手を尽くし治療するわけですが、それらは大きく二本の柱にわけられます。

 一つ目は循環(血液の量と流れ)の改善です。熱中症では発汗、流涎、嚥下困難、呼吸数増加による口腔からの蒸発など、多くの水分を電解質(イオン)とともに喪失し「等張性脱水」になります。脱水は循環血液量を低下させ、悪くすると脳や肝臓、腎臓など体中の組織に不可逆的なダメージを与えてしまいますので、血管からの補液により血液量を増やすという治療をします。そこへ強肝剤やビタミンを補助的に投与します。TVなどでよく水分と塩分をこまめに摂るように言われるのは、脱水が抑えられ熱中症の予防となるからです。

 二つ目は上がりすぎてコントロール不能になってしまった体温の冷却です。人間同様牛も体温調節ができない状態になってしまうと生命活動の危機ですので、水をかけ日陰で扇風機をガンガンあてたり、氷水をたっぷり飲ませたり、とにかく牛体を冷やします。ヒトの救急現場では濡れた木綿(ガーゼ)を皮膚に乗せて扇風機で送風して蒸発熱による冷却をしていますが、発想は同じです。コントロールできなくなった熱を逃がしてやることで全身の臓器が受けるダメージを減らすことができ、抹消の毛細血管を収縮させるので循環の改善にもなります。
 と・こ・ろ・が・・・牛はとにかく体積が半端じゃありません。人間と同じように冷却処置をしてもスズメの涙ほどの効果しかないのでは・・・と思ってしまいます。事実、数十分にわたり水をじゃんじゃんかけて、ぐるんぐるん扇風機をあてても、暫らくして牛体を触ると温泉のあがりのように熱く、かえってハアハアいっている・・・ということもあります。つまり・・・それでは、そんな程度の治療では、牛にはヌルいのではないでしょうか。やはり牛には牛の規格で臨まなくては!!

どうする?? つづく

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