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松本大策のコラム
セファガード・コバクタンのお話し

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2019年5月24日

 みなさん、セファガ−ドやコバクタンってご存じですか?どちらもインターベット製の「セフキノム」というお薬で、販売系統が違うと名前が違うだけで、同じお薬です。
 細菌の細胞壁という、一番外側の壁を壊す作用が強く、パスツレラとかマンヘミアなどの肺炎にたいへんよく効きます。ただし、マイコプラズマには細胞壁がありませんから、マイコプラズマに対する効果はありません。

 さて、ここからが今回お伝えしたい要点なのですが、このお薬の使用説明書には、適応症として「肺炎」と書いてあります。まあ、たいていの抗生物質の使用説明書の適応症には、「肺炎」と「腸炎」しか書いてないやつも多いのですが、それ以外の感染症にも獣医師の判断で使用する事も多いのです。

 それで、なぜわざわざセファガードとコバクタンを取り上げてお話しをするかというと、いろいろなところで獣医さんから「下痢に使っているけどまったく効かない!」というお話を耳にするからです。正しい情報をお伝えしておかなければ、セファガードやコバクタンの価値を落とすことになるし、農家さんや牛さんにも不利益になると思ったのです。

 実は、セフェム系の抗生物質は肺炎にはとても有効なのですが、腸内のバイ菌(善玉菌も悪玉菌も)まで殺してしまいます。すると、ドラえもんでジャイアンが威張っているうちは大人しくしているスネ夫が、ジャイアンがいなくなると悪さをするように、強い菌がいる間は大人しくしているバイ菌(スネ夫のようなやつで、クロストリジウム・ディフィシルという菌です)が暴れ出して、「偽膜性腸炎」という病気を起こしてしまうのです。こういう状態は「菌交代症」と呼ばれています。

 「肺炎にはとても効果があるけれど、偽膜性腸炎を起こしてしまう恐れがある」というのが、従来のセフェム系抗生物質の欠点でした。
 そこで、肺には十分効果があるけれど、腸には分布しない、つまり腸内細菌には影響のないセフェム系、ということで開発されたのがセファガードやコバクタンというセフキノム製剤なのです。簡単に言うと肺炎にはとても効くけど偽膜性腸炎を起こさない、ということです。

 言い方を変えれば、「肺炎には絶大な効果(マイコプラズマを除く)があるけれど、腸では働かない」というものです。ですから、この薬を下痢に使っても、腸に働かないのですから効くわけがありません。本当なら、このことは使用説明書に書いていただきたいのですが、薬事承認などいろいろな大人の事情で書くことが出来ないとのことで、この場で、僕が紹介した次第です。

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