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松本大策のコラム
繁殖障害の一例

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2019年4月15日

 いつもは繁殖成績がよい、とある繁殖農場で、分娩後および未経産の受胎率が低下しているとの相談がありました。
 飼料は良質の育成飼料を分娩後2.5kgを増し飼いと、祖飼料はイナワラとバミューダを使用しているとのことで、授精師の稟告によると卵が堅いそうです。

 とてもよいコンサル事例だと思いましたので、ネタ切れしているコラムネタにしよう(笑)と考えた次第です。

 まず、卵が硬いのはビタミンAの不足で起こるケースがとても多いのです。排卵遅延も同じ原因で起こります。その原因と考えられるのは、分娩前後のストレスによるビタミンA消耗に対して、バミューダやイナワラではβカロテンが不足しているためβカロテンからのビタミンA給与量が追い付いていないこと。
 もう1つは、粗飼料の硝酸態窒素が高くビタミンAが破壊されている可能性(硝酸態窒素1gで270万単位のビタミンAを破壊します)事を疑います。

 βカロテン不足の場合は、黄体形成が不良になるため、排卵後一週間の黄体の状態を確認しなくてはいけません。この時も受胎率が落ちます。

 さて、配合飼料の問題に移りましょう。この農場で使用している育成飼料は大変優秀なものです。僕自身も分娩前後の増し飼いに強くお勧めしています。というのも、分娩前2ヶ月は胎児の発育のためにタンパク質の要求量が増加します。そこで繁殖飼料よりも、タンパク:カロリーのバランスがタンパク高めな育成飼料を増し飼いに使用した方が効率的なのです。それは、タンパク質をたくさん必要とする乳の生産をする際にも、同じ事が言えます。

 しかし、ここで一つ問題がありました。この農場では、人工哺育なので、お母さん牛はお乳を出す必要がありません。つまり産後の増し飼いによって給与タンパクが過剰になっている可能性があります。

 この場合、使いきれなかったタンパク質は、老廃物のアンモニアとして全身を循環し、子宮内膜や卵胞液中の尿素窒素が高くなります。すると、子宮内のphを弱アルカリに保つ酵素が失活して、子宮内が酸性に傾き、受胎率が低下します。さらに、卵胞液中の尿素窒素は、卵を殺して死滅排卵させます。そこで、念のため、血液中のアンモニアとBUNを測定してタンパクの問題を解決する必要があります。

 アンモニア測定には、特殊な試験管に採血する必要があります。獣医さんか家畜保健衛生所にお願いしてみましょう。もし設備がない場合は、最寄りのヒトの検査センターで測定してくれるところもあるようです。

 いずれにせよビタミン剤と、βカロテンは給与した方がよいと思われます。獣医さんにお願いしてみましょう。βカロテン製剤は、ベータブリード(ゼノアック)が使いやすいと思います。

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