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松本大策のコラム
蹄葉炎の処置(デキサメサゾン減量法)

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2018年3月2日

 最近、田尻系の種雄牛が増えてきたこともあり、食餌性蹄葉炎や脂肪壊死症が見られるようになりました。それに伴って治療法の質問をお受けする機会も増えてきたので、検索機能もついたことだし、コラムに一度載せておこうと思います。

蹄葉炎の処置

1:蹄がのびている場合は速やかに削蹄

2:ゼノビタン(ゼノアック)10ml+ビタミンD3注5ml 筋肉注射
  およびドン八ヶ岳ADE(ゼノアック) 50g×30日

3:エクテシン液100ml 一回経口投与

4:デキサメサゾンを初回10ml、その後9,8,7,6,5,5,4,4,3mlと毎日減量しながら筋肉注射

5:デキサの免疫抑制を防ぐために抗生物質(初回インタゲン6g、次回から結晶ペニシリン300万単位)を併用する

6:バイオバガスやパイン粕、モラリックスなどを給与し第一胃粘膜絨毛の再生を促す

7:飼料の発酵速度を緩やかにする(大麦やトウモロコシの加工形態を変えてもよいが、発酵ビール粕を40%程度混ぜるのが手軽)

 処置の意味をお話ししておきましょう。
 まず、1の削蹄ですが、これは蹄葉炎治療の基本ですね。ルーメンアシドーシス傾向の牛さんは蹄の伸びが早いのですが、蹄が長いと、かかとの部分(正確には蹄踵の部分ですね。牛さんのかかとは、本当は飛節のところなんです。)の血管を圧迫してヒスタミンという毒物の産生を亢進してしまうため、さらに蹄葉炎が悪化しやすいのです。

 次に2のゼノビタンとドン八ヶ岳ですが、ビタミンAの大量投与で第一胃粘膜の機能を改善し、第一胃内で作られる酸の吸収を良くする効果と、それぞれの細胞の働きや治癒力を高める効果を期待して与えます。さらにデキサメサゾンの連続投与の際にまれに発生する消化管潰瘍を予防するために、粘膜上皮を保護する目的もあります。ドン八ヶ岳に含まれる有機亜鉛もビタミンAと協力して粘膜の機能を改善しますし、蹄を守る働きもあります。ビタミンDは、蹄葉炎の場合、歩様が悪くなって各関節に負担をかけるため骨軟症を併発している場合が多いこと(写真:蹄葉炎と骨軟症が併発)、重度の蹄葉炎になると蹄の中の末節骨にカルシウムの沈着がおこり症状を悪化させるため、これを防ぐ意味で投与します。

 また、3と5はデキサメサゾンの連続投与で牛さんの免疫が低下して、コクシジウムやクロストリジウム菌などの感染が起こりやすくなるため、それを防ぐ目的があります。この処置は、血便が多発する農場では特に重要です。クロストリジウムの濃厚汚染農場では、併用する抗生物質をさらに強力なものに変更知る場合もあります。

 4のデキサメサゾンが、蹄葉炎治療の主役です。副腎皮質ホルモンという薬剤の仲間ですが、強力な消炎効果があります。ただし、連続投与後にいきなり投与を中止した場合の反動が怖い薬ですから、徐々に量を減らしていく「減量法」という方法で投与します。また、この薬は人間の臓器移植の時に免疫抑制剤として使われるほど免疫を低下するので、3や5のように抗生物質などと併用するのです。僕や仲間の獣医さんは、この方法で、多くの立てなくなるくらい重症の蹄葉炎を治癒させています。治療は10日間ほどですが、治療終了後も徐々に改善していき、1ヶ月程度で通常の牛さんのようになります。

 それから重要なことは、6のバイオバガスやモラリックス(ゼノアック)の給与で第一胃粘膜絨毛を回復させる、ということです。バイオバガスにもモラリックスにも急速に粘膜絨毛を発達させる効果がありますから、第一胃における酸の吸収力を向上させルーメンアシドーシス傾向を改善するのです。その上で、7の飼料の変更をしてあげましょう。そうしないと、せっかくデキサメサゾンの減量法で一時的に蹄葉炎を改善してあげても、ルーメンアシドーシス傾向が続いていれば、すぐに元の木阿弥で蹄葉炎が再発してしまうのです。

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